2015 Fiscal Year Research-status Report
乳児特発性僧帽弁腱索断裂の病因研究-母親由来抗SSA抗体による組織障害について
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15K09705
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
白石 公 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (80295659)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 乳児 / 僧帽弁閉鎖不全 / 急性心不全 / SSA抗体 / 川崎病 |
Outline of Annual Research Achievements |
[背景] 乳児特発性僧帽弁腱索断裂は、生来健全な乳児に突然の急性循環不全が発症し、診断と早期の外科治療が遅れると死に至る疾患である。報告例のほとんどが日本人乳児である。本疾患の病因および病態を明らかにし、治療法を早急に確立することを目的とする。 [対象と方法] 患者の発症年齢、基礎疾患の有無、発症様式、血液生化学所見、画像所見、手術所見、病理組織所見、予後、転帰などについて調査した。血液、尿、弁、咽頭拭い液からのウイルス分離、弁置換を行った症例では弁組織の凍結保存やホルマリン固定病理組織標本の免疫組織科学的検討を行い、腱索断裂のメカニズムを解明研究する。 [結果]全国調査で95例について臨床所見を要約したところ、発症は生後4〜6ヶ月に集中し(85%)、やや男児に多く(58:42)、春から夏の頻度が高かった(66%)。基礎疾患として、川崎病10例、抗SSA抗体陽性2例が認められた。外科治療は弁形成が52例(55%)、人工弁置換が26例(27%)に行われた。死亡例は8例(8.4%)に認められた(Circulation. 2014;130:1053-1061)。平成27年に新たに発症した1症例において切除組織からウイルスDNAの網羅的解析を行ったが、原因ウイルスの同定には至っていない。新たな2症例で母体由来のSSA抗体が原因と考えられ、うち1例では、腱索断裂に加え、完全房室ブロック、拡張型心筋症が認められた。 [結論]今後も基礎研究と疫学調査を継続し、病因解明に向けた努力を行う。とくに組織からのウイルスゲノムの網羅的解析による病因解析、RNAトランスクリプトーム解析による病態解明、免疫染色によるSSA抗体の検索に力を入れ、診断および治療法の確立に向けて研究を発展させる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全国調査の母親由来の抗SSA抗体陽性例は2例であるが、見逃すことのできない原因である。SSA抗体は母体から胎盤を通過して、胎児の心筋細胞、とくに刺激伝導系細胞に結合し、アポトーシスから炎症細胞浸潤をきたし、抗体用患者の約1%に完全房室ブロックを起こす。同様な機序で心内膜細胞にも結合して胎児期に炎症を引き起こし、腱索部分が瘢痕化して出生後に断裂することが想像される。今後SSA抗体と胎児心内膜組織、弁組織、腱索組織を用いたin vitoの実験が必要になる。一方で、全国調査の一部の症例で僧帽弁乳頭筋頂部の腱索への移行部にエコー輝度の高い所見が認められた。これは非特異的所見であるが、今後症例を重ねて、これらの所見を抗SSA抗体陽性の母親から生まれた児に対する腱索断裂の早期診断につなげてゆく必要がある。 また、CRPが上昇しないこと、腱索組織から単核球を主体とする炎症細胞浸潤が高率(69%)に見られたこと、感冒様の症状が高率(88例)に認められたこと、母親由来の抗体が低下する生後4月から6ヶ月に高率に発症する、季節的に春から夏に多発するなど、心筋炎を引き起こすエンテロ系ウイルスの好発時期に一致する所見から、何らかのウイルス感染が腱索に炎症を引き起こし断裂に導いた可能性が高く、患者の血液、尿、心臓のサンプル(弁置換を行った症例)からウイルス分離やウイルスゲノムの検索が必要である。血液のウイルス分離を2例で行ったが、いずれも陰性であった。平成27年度は、新たに発症した1例でウイルスゲノムの網羅的検索を行ったが、現在までに原因と考えられる既知のウイルスは検出さていない。今後症例を重ねるとともに、過去の検体も検査して原因となるウイルスが存在するか否か検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本疾患の病因を明らかにするためには、遺伝子や転写産物の網羅的解析のデータを行い、これまで知られていなかった未知の病因に迫るアプローチが不可欠である。近年、DNA, RNAを劣化させない固定液PaxGeneが発売され、様々な保存組織から損傷の少ない良質のDNA, RNAが抽出でき、ホルマリン固定保存組織から次世代シークエンサーを用いたDNA, RNAの網羅的解析を行うことが可能となった。そこで、本疾患のDNA, RNAの網羅的解析を含む新たな研究計画を国立循環器病研究センター倫理委員会に提出し、承諾された(M25-097-2)。新たに発症し、僧帽弁置換術を余儀なくされた症例において、患者代諾者から同意書を得た上で得られた組織をPaxGeneで固定し、DNA, RNAを回収して、大阪大学附属微生物病研究所感染症メタゲノム解析研究分野教室においてウイルスゲノムの解析を行っている。また同様に本疾患患者の過去のホルマリン固定パラフィン切片(FFPE)からRNA, DNAを回収して、ウイルスゲノムの検索およびRNAトランスクリプトーム解析を行う。また、本疾患に抗SSA抗体やウイルスがどのように関与しているのか、DNAの網羅的解析により本疾患に関与するウイルスが見つかる可能性がある。そうすれば、本疾患予防のための抗体やワクチンの作成にもつながる。またRNAトランスクリプトーム解析により、SSA抗体陽性患者でどのような炎症シグナルカスケードが亢進しているかを明らかにできれば、腱索断裂にいたる分子細胞生物学的なメカニズムを明らかにすることができ、今後、治療法の開発につなげる可能性が出てくる。
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Causes of Carryover |
当初予定していた国内学会を他の研究費に計上し、購入予定として消耗品が安価に購入できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究での報告例の臨床情報の収集、解析研究を行い、小児循環器学会研究委員会と全国調査のアンケート調査を行い、外科治療指針の確立・ガイドラインの作成を行い、本疾患の認知を広める予定である。
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Research Products
(2 results)