2016 Fiscal Year Research-status Report
小腸移植における高圧ガス保存法の応用:再灌流障害軽減と免疫抑制作用の可能性
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15K10151
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
畑山 直之 愛知医科大学, 医学部, 助教 (80534792)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松野 直徒 旭川医科大学, 医学部, 講師 (00231598)
梨井 康 国立研究開発法人国立成育医療研究センター, 移植免疫研究室, 室長 (60321890)
内藤 宗和 愛知医科大学, 医学部, 教授 (10384984)
渡辺 賢 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 教授 (60191798)
伊藤 正裕 東京医科大学, 医学部, 主任教授 (00232471)
平井 宗一 愛知医科大学, 医学部, 教授 (70516054)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ラット / イヌ / 小腸 / 高圧ガス保存 / 一酸化炭素 / 酸素 / 虚血再灌流障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、一酸化炭素(CO)と酸素(O2)の混合ガスを用いた高圧ガス保存法にてラット小腸とイヌ小腸の保存を試みた。我々は、これまで高圧ガス保存法により、心臓(心筋)、四肢(骨格筋)にて、既存の保存法よりも良い結果を得てきた。ラット小腸では、特に平滑筋を標的として、保存後の電気生理学的評価を行なった。また、イヌ小腸では、昨年度高圧ガス保存法による保存で同所性移植を行った5頭に、既存の方法による対照群と高圧ガス保存法による保存後の移植を追加し、評価を行なった。 具体的内容;ラット小腸を用いた電気生理学的評価には、マグヌス管を使用した。ラットから一定の長さの小腸を摘出切断し、COとO2を用いた高圧ガス保存法にて1、3、5、7日と経時的に保存した。高圧ガス保存された小腸は、7日保存後においても正常な腸管運動が見られ、アセチルコリンによる刺激で、摘出直後の小腸と変わらない収縮が確認できた。イヌ小腸では、それぞれ高圧ガス保存とUW浸漬保存にて24時間保存した後、同所性自家移植を行い、比較、評価を行なった。高圧ガス保存した小腸は、再灌流直後から約1分で蠕動運動が見られ、その立ち上がりの早さと活発な動きを確認できた。UW浸漬保存群では、血色が悪く、蠕動運動は確認できなかった。 意義・重要性;今回、ラット小腸の結果では、腸管の平滑筋を長期に保存しても、その運動機能を保持していることを示した。またイヌ小腸においても、24時間保存後も移植後の血流は良好で、蠕動運動を確認することができた。これらの結果から、虚血再灌流障害の軽減、高圧ガス保存法の平滑筋への応用、また大きな臓器への応用の可能性が示唆された。臨床において、移植前の腸管の質をより良く保つことは、生着率の改善、術後の一時的な人工肛門や胃瘻および腸瘻の早期離脱が可能となり、患者の日常生活への早期復帰に貢献するだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高圧ガス保存法の小腸への応用を目的とした本研究は、段階を経て順調に進んでいる。評価、解析にラットの小腸を用いることで、イヌにはない抗体やPCRプライマーなど、障害、細胞保護に関わる、より特定された解析が可能となる。イヌによる評価、解析では、メカニズムに迫るに至るには限界がある。今回、ラット小腸を保存の対象に加えることで、高圧ガス保存法が小腸保存のどこに作用しているかが特定できるだろう。またイヌ小腸保存に関しても、順調に移植数を重ね、再現性のあるデータを取得できている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、引き続きCO、O2を用いた高圧ガス保存法にて保存したラット小腸にて、解析を行う。分子学的解析は、Real time RT-PCR によるmRNAの発現を各種プライマー(炎症性サイトカイン、アポトーシス関連、抗酸化関連)を用いて解析を行う。その後、関連した抗体を用いてWestern blottingを行い、タンパクの発現を解析する。イヌでは、移植後の小腸へ血流評価、体重変化に伴う栄養吸収能の評価を行う。さらに、29年度は、異系ラット同所性小腸移植を行い、高圧ガス保存法による免疫抑制作用の検討を行う。BN(Brown Norway)/ SsN Slc (♂)をドナーとして、LEW/ SsN Slc (♂)をレシピエントとして用いる。移植後の小腸を採取し、フローサイトメトリー、免疫組織化学染色、Real time RT-PCR、Western blottingによる炎症性サイトカインの発現などをUW保存群と比較・検討する。再灌流障害の軽減に加え、高圧ガス保存法による免疫抑制作用を見出すことで、他の臓器よりも拒絶反応や感染症の起こしやすい小腸の術後と予後の改善に貢献できると考えられる。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、300,759円の翌年度繰越額を計上した。今年度、イヌ小腸の保存実験よりもラット小腸の保存実験にエフォートをかけ、大動物にかかるはずの費用が一部浮いたため、想定した予算よりも低い支出で済んだ。その結果、未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、引き続き大動物(イヌ)の小腸保存移植実験と新たに異系ラットを用いた高圧ガス保存法による免疫抑制作用の検討を行うため、未使用額はその経費に当てることとしたい
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