2015 Fiscal Year Research-status Report
GABA-A受容体トラフィッキングによる新たな麻酔効果制御機構の解明
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15K10503
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
上野 伸哉 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00312158)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
尾崎 拓 岩手大学, 工学部, 准教授 (70621069) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | GABA-A受容体細胞内分布 / 受容体リン酸化調節 / シナプス外GABA-A受容体 / ベンゾジアゼピン長期投与 |
Outline of Annual Research Achievements |
脳内の主要な抑制性神経伝達物質であるGABAと対応するGABA-A受容体の細胞内移動、分布のメカニズムを知るために、PRIP-1欠損マウスとベンゾジアゼピン長期投与モデルマウスを用いた。PRIP-1タンパク質は、GABA-A受容体の輸送およびリン酸化調節機能を持つと考えられている。PRIP-1欠損マウスに対する、麻酔薬の効果を意識消失の指標となる正向反射および、侵害刺激に対する応答の指標となるテイルピンチ法を用いて評価した。この欠損マウスにおける静脈麻酔薬の効果を野生型との比較により、GABA-A受容体のbeta3サブユニットをターゲットとするプロフォールの意識消失効果のオンセット延長および持続時間の減弱がみられた。この変化は、PRIP-1欠損により、beta3サブユニットから構成されるGABA-A受容体の輸送障害によるものであった。GABA-A受容体はシナプス直下とシナプス外に存在し、抑制効果を発揮している。PRIP-1欠損によりシナプス外に存在するGABA-A受容体応答の減弱がみられ、プロポフォールの効果は主にシナプス外に存在するb3サブユニットで構成されるGABA-A受容体を介して引き起こされることが明らかとなった。またPRIP-1欠損マウスにおけるプロポフォール麻酔の減弱効果が、脱リン酸化阻害剤である、オカダ酸投与により回復する現象を明らかとした。GABA-A受容体を標的とする薬物長期投与により、GABA-A受容体の構成、機能変化が知られている。そこで、ベンソジアゼピン長期投与モデルマウスを用い、分布変化における候補タンパク質の探索のために網羅的発現解析をマイクロアレイを用いて行った。大脳皮質、海馬、扁桃体の部位別にわけ,共通で発現変化する遺伝子の候補を明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PRIP-1欠損動物による電気生理学的および個体レベルにおける麻酔薬効果の評価、および脱リン酸化過程がGABA-A受容体輸送、細胞内分布に関与することを明らかとし、PRIP-1がGABA-A受容体輸送制御と供に、麻酔薬効果発現調節にも関わっていることを明らかとした。 これは麻酔効果発現に関わるタンパク質の探索の目的に合致するものである。その点では、進捗過程においては大きな成果である。また脱リン酸化が麻酔効果調節に大きく関わっていることが明らかとなったため、この過程のメカニズム解析をすすめ、新たな麻酔効果制御にかかわる候補タンパク質発見につながると考えられる。今後もリン酸化調節機構の解析を進展させる予定である。一方、GABA-A受容体標識によるトラフィッキングの可視化に関して、受容体標識は、Halo-tagをはじめいくつかの標識タンパク質を結合させたGABA-A受容体を作製した。しかしながら、細胞レベルでの発現、標識の蛍光強度等が十分でなく、トラフィッキングの可視化の確立までにはいっていない。 そこで、シナプス前膜、シナプス後膜、シナプス外の細胞膜が分離できるような細胞分画法を確立させた。各画分におけるGABA-A受容体の発現を比較検討可能とした。この結果、タンパク質発現レベルにおいてのGABA-A受容体の細胞内分布を評価可能とし、トラフィッキング変化を解析する。可視化過程の進捗は想定より遅いが、それに変わるものを確立しているため、全体として進捗状況はおおむね順調と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
PRIP-1欠損動物を用いた麻酔効果評価により、個体レベルでの脱リン酸化阻害投与が、麻酔薬効果を回復させることを明らかとした。この脱リン酸化調節はGABA-A受容体機能変化を伴っていることが想定されるが、そのメカニズムの詳細は、いまだ不明である。 また、PRIP-1欠損動物においてシナプス外のGABA-A受容体を介した応答の減弱、ベンゾジアゼピン系をはじめとした麻酔薬の効果の減弱を、スライスパッチクランプ法により明らかにし、既に報告している。この結果と今回の個体レベルにおける麻酔薬の減弱効果、脱リン酸化阻害による麻酔薬効果の回復、PRIP-1タンパク質が、受容体リン酸化調節にも関わること、以上を考慮し、以下のメカニズムを想定した。 PRIP-1欠損により、GABA-A受容体の輸送機能障害によりシナプス外に分布するGABA-A発現低下を来たし、ベンソジアゼピン、プロポフォールの効果減弱につながる。その結果、個体レベルにおける麻酔作用減弱効果が顕在化する。このPRIP-1は、GABA-A受容体の脱リン酸化を抑制し、シナプス外への受容体移動もしくは発現を促進していると想定される。 しかしながら、この仮説の直接証明はなされていないので、まず、スライスパッチと用いた実験系において、オカダ酸投与により、GABA応答の変化、特にPRIP-1欠損動物において、麻酔薬によるGABA応答増強効果が野生型に対するそれと同等に回復するかどうかを探索する。またGABA-A受容体beta3サブユニットの発現量をシナプス部位、シナプス外の画分ごとに解析し、PRIP-1との野生型との比較、脱リン酸化作用による変化を解析する。 同時に、ベンゾジアゼピン長期投与モデル、PRIP-1欠損動物を用いて網羅的発現解析をさらにすすめ、GABA-A受容体輸送にかかわるタンパク質の探索を継続する。
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Research Products
(5 results)