2015 Fiscal Year Research-status Report
Ni2+イオンによる口腔癌治療の可能性に関する研究
Project/Area Number |
15K11086
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
浅野 正岳 日本大学, 歯学部, 教授 (10231896)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
尾曲 大輔 日本大学, 歯学部, 助教 (10608699)
塩野目 尚 日本大学, 歯学部, 専修医 (10757652)
五條堀 孝廣 日本大学, 歯学部, ポスト・ドクトラル・フェロー (10755573)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 口腔扁平上皮癌 / ニッケルイオン / NF-kB |
Outline of Annual Research Achievements |
口腔内の悪性腫瘍の大半は扁平上皮癌であり、その増殖・転移活性が転写因子NF-kBの活性に相関していることが知られている。すなわち、上皮性異型性、上皮内癌、浸潤癌と進行するにつれてNF-kB活性が増強していくとされている。これまでの研究で我々は、ニッケルイオン(Ni2+イオン)がNF-kBの活性を抑制することを明らかにしてきた。これはNi2+イオンが細胞内でNF-kBのp50 subunitに結合し、核内移行を抑制することによるものであり、Ni2+イオンはp50 subunitのN末端側にあるヒスチジン残基のクラスターに結合することが分かった。そこで、Ni2+イオン投与がNF-kBの活性抑制を通じて、口腔扁平上皮癌の増殖や転移を抑制しうるのではないかとの着想を得、本研究を企図した。研究では、口腔扁平上皮癌由来細胞株(oral squamous cell carcinoma-derived cell line: OSCC)を用いて、Ni2+イオンの増殖・転移に対する効果についてin vitro実験により、また、マウス生体内でもNi2+イオンは効果を発揮しうるものかという点についてin vivo実験を計画し検討することとし、Ni2+イオンの抗腫瘍薬としての応用の可能性について追及することにした。その結果、1)Ni2+イオンはOSCCにおいて腫瘍転移に重要なmatrix metaloproteinase(MMPs)の発現を抑制した事、2)マウスの舌に注入したOSCCの増殖と転移巣形成を抑制することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は 1)Ni2+イオンは腫瘍の転移に関与する分子の発現を低減するか。2)Ni2+イオンは生体内での腫瘍の増殖・転移を抑制しうるか。3)Ni2+イオンはどのようにして細胞内に取り込まれるのかの3点について検討することを計画した。1)についてはin vitro実験でOSCCであるHSC3細胞においてMMP1,2,8,9,13,14のすべてがNi2+イオンにより発現抑制されることを明らかにした。特にMMP9に着目して行った免疫沈降実験では、Ni2+イオン添加は明らかにMMP9発現を抑制していた。2)についてはヌードマウス舌側縁にHSC3-M3(HSC3の高転移株)を注入した後、飲水中に1 mM NiCl2を添加して飼育したところ、MMP9の発現が腫瘍原発巣で低減すること、また、腫瘍中心部で壊死層が広範に認められ、これは腫瘍による血管新生活性が抑制されたことによるのではないかと予想しうる結果を得ている。これらの変化は組織学的観察に加え、実験動物用CTを用いても検討し、組織学的データを裏付ける結果を得ている。3)については細胞のpinocytosisとの関係を検討中であるが、現時点では想定された抑制効果は確認されていない。以上の理由から、当初企画した研究目標に概ね合致して研究が進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り平成27年度は概ね計画通り研究が進捗しているものと考えている。動物実験においてNi2+イオンがOSCCの血管新生活性を抑制する可能性について検討中である。これについては舌に形成された腫瘍におけるMMP9の発現などについて免疫組織学的な検索を予定している。一方、癌の転移活性については、ヒトbeta-globin遺伝子の検出による転移の程度を検討し、この方法ではNi2+イオン投与が転移を抑制しているという結果を得たが、組織学的に転移巣が形成されるか否かについてはさらに組織学的に検討していく予定である。また、Ni2+イオンがいかにして細胞内に取り込まれるのかという点について各種阻害剤を用いて検討中である。Ni2+イオンは細菌種によっては生存に必須のイオンであり、積極的にNi2+イオンを取り込むためのNi2+オペロンを有している。ヒト細胞におけるNi2+イオンの取り込みについても同様に取り込みに関与するタンパク質が存在するかもしれない。そこで、siRNAライブラリーでのスクリーニングを平成28年度以降は計画している。同時に、Niカラムを用いて、Ni2+イオン存在下および非存在下に培養されたHSC3細胞の細胞溶解液を免疫沈降し、両サンプル間で出現強度などに違いの見られるバンドの検出を進める。これはNi2+イオンに結合するタンパク質の中で、Ni2+イオン添加により影響を受けるものがNi2+イオンの効果発現に関与するのではないかとの予測に基づくものである。
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Causes of Carryover |
消耗品費として計上した費用の一部が残金として残ったが、少額のため試薬、キット等の購入には使えず、次年度繰越金となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度の計画においても、Ni2+イオン刺激後の細胞におけるIL-8分泌については引き続き測定を行う。このために細胞培養関連の試薬をはじめ、IL-8濃度測定用のELISA kitを大量に購入する予定である。また、ヌードマウスやluciferase assay kitなどの消耗品の購入のための予算を計上している。平成27年度の残金は、これらの購入に充当したいと考えている。
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Research Products
(1 results)