2016 Fiscal Year Research-status Report
抗菌成分含有口腔ケア剤による高齢者の口腔および全身疾患発症予防の可能性について
Project/Area Number |
15K11456
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
田村 宗明 日本大学, 歯学部, 准教授 (30227293)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
泉福 英信 国立感染症研究所, 細菌第一部, 室長 (20250186)
落合 邦康 日本大学, 歯学部, 特任教授 (50095444)
植田 耕一郎 日本大学, 歯学部, 教授 (80313518)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 高齢者 / 医療・福祉 / 口腔ケア / 老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者らは、まず.抗微生物および抗酸化作用を持つ天然抗菌成分カテキン含有ジェルを開発し,in vitroで口腔の正常維持に関わるレンサ球菌群には影響を与えないが,齲蝕原因菌,歯周病原菌などの有害な病原菌に対して抗菌効果を示すことを確認し,臨床での口腔の微生物叢・数のコントロールと長期使用の可能性を見出した。さらに,口腔に限局せず一般病原菌である肺炎レンサ球菌,黄色ブドウ球菌および緑膿菌に対しても抗菌効果を示すことを確認した。また,口腔カンジダ症の原因真菌であるCandida albicansにも抗菌効果を発揮すること,その抗菌機序は菌のATP産生量の減少および病原性(付着能,菌糸形変換およびタンパク分解酵素産生能)の阻害で,これらは遺伝子レベルで抑制することを解明した。一方,日本大学歯学部倫理委員会より承認を受け,研究に同意を得た要介護高齢者を対象とした臨床でのパイロット実験を実施した。In vivoでの実験の結果,カテキンジェルを4週間,口腔内に塗布することによって齲蝕原因菌,歯垢成熟に関与する菌,歯周病原菌群およびC. albicansそれぞれの菌数が有意に減少した。一方,in vitroと同様に口腔の正常維持に関わる口腔レンサ球菌群菌数への影響は認められず,選択的抗菌効果を示したことから,臨床においても十分有用な抗菌効果を発揮するものと考えられた。これらの結果から,開発したカテキンジェルは要介護高齢者の口腔内微生物数のコントロールに有用で,かつ,長期使用が出来ることから,口腔病原微生物が関与する口腔ならびに全身疾患の発症予防に役立ち,健康維持とQOLの向上に貢献できる可能性が示唆された。さらに臨床で応用可能な新たな抗菌作用を見出し,新たな口腔ケア剤の開発へと繋がるものと示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の進捗状況は,1.加齢および性別が口腔細菌叢の変化に与える影響について検討する目的で研究に賛同を得た健康被験者と,実験予定にはなかった障害者から唾液を採取し,次世代シークエンス機器(MiSeq,Illumina)による菌叢解析と,real-time PCR 法による菌数,特に歯周病原菌数の算定を行い,比較検討を行った。その結果,次世代シークエンスの結果では,両被験者とも口腔レンサ球菌群が優勢で検出比率がもっとも高かった、しかし,全菌叢に占めるその割合は健康高齢者の方が高く,他の主だった菌属に相違が見られた。Real-time PCRによる歯周病菌数の解析では健康高齢者の方が多く認められた。今後得られたデータから年齢・性別の相違について分析する予定である。2.カテキンジェル塗布が口腔細菌叢に与える影響として1.の被験者を対象に口腔ケア剤であるカテキンジェルの口腔内塗布による細菌叢の構成と菌数変化を同様に評価したところ,両解析法において塗布による両被験者の口腔レンサ球菌属菌への影響は認められなかった。一方,real-time PCR法では歯周病原菌群およびカンジダ菌数が減少し,特に健康高齢者で有意差が認められた。3.新たな抗菌成分による抗菌効果の検討としてバイオアクティブガラスから放出するイオンの歯周病原菌・病原性因子の抑制効果を検討したところ,歯周病原菌のP. gingivalisの発育,タンパク分解酵素であるRpgおよびKgp活性および血球凝集能を濃度依存的に抑制することを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
報告したカテキンジェルの歯周病原菌に及ぼす抗菌機序の解明,他の天然抗菌成分の検索と口腔微生物に対する抗菌効果を確認し,それぞれのジェルを供試して動物実験およびヒト臨床実験による口腔細菌叢および菌数コントロール効果の可能性について詳細に検討する。さらに口腔微生物が原因と考えられている全身疾患発症に対して,口腔ケア剤による予防の可能性について検討する予定である。
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Causes of Carryover |
残金が生じた理由は,いくつかの細菌細胞内抗菌機序の解明実験が実施されなかったため,培養培地,分析kitが未購入であったこと,実験遂行のための補助者の実働日数の減少など人件費・謝金が計画時と比べて低額となったからである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は,歯周病原菌群に対するカテキンジェルの抗菌機序の解明,カテキンジェル以外の天然抗菌成分の検索とジェルの作成およびその抗菌作用の確認と機序の詳細な解明を行う。一方,被験者を増やした臨床実験を行い,さまざまな口腔ケア剤を使用しての口腔微生物叢や菌数の変化について次世代シークエンス解析やreal time PCR法などで検討を加える。これらの実験のための消耗品,外部への解析委託,実験補助者の人件費・謝金および研究成果の学会発表・論文発表のために平成28年度の余剰分と平成29年度に請求した助成金を充当予定である。
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Research Products
(12 results)