2015 Fiscal Year Research-status Report
在日外国人の子どもたちを取り巻く環境とメンタルヘルス
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15K11891
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
瀧尻 明子 大阪市立大学, 大学院看護学研究科, 講師 (70382249)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松葉 祥一 神戸市看護大学, 看護学部, 教授 (00295768)
川口 貞親 産業医科大学, 産業保健学部, 教授 (00295776)
植本 雅治 神戸市看護大学, 看護学部, 名誉教授 (90176644)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 在日外国人 / ベトナム人 / 二世・三世 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ニューカマー(新来外国人)のうち、特に兵庫県に特徴的な在日ベトナム人の子どもたちへの調査を中心に行い、彼らのおかれた現状、問題点、その背景にある諸要因を明らかにすることを目的としている。子どもに対する調査だけでなく、取り巻く環境としてその保護者へのアンケート調査、学校関係者へのインタビュー調査、コントロール群としての集住地域の日本人の子どもへの調査を行うことにしており、一部の調査は開始している。 平成27年度は研究計画の倫理審査後、在日ベトナム人児童生徒の学習をサポートする補習教室、母語能力の維持獲得のための母語教室を拠点に子どもたち、支援スタッフとのラポール形成、強化に努め、11月より本格的に調査説明、依頼を開始した。 保護者への直接的なアプローチが非常に困難であり、そのため子どもへの調査の同意を得ることに難渋はしているが、コミュニティのキーパーソンからのサポートやカトリック教会での呼びかけなどにより、現在のところ子どものデータは22ケース収集でき、入力、分析を進めている。質問紙には表れない子どもの苦労や辛さが面接によって語られているため、その分析方法についても検討しているところである。 保護者への調査はさらに困難であるが、接触することにより、保護者がいかに忙しく余裕の無い生活を送っているか、いかに日本の学校文化・社会への適応が難しいか、子どもの将来が厳しいものか、などが明らかになってきた。データとしては出てこない個人的な体験であっても、相当数が苦労している現実をいかにまとめるか、研究計画の修正、再検討をしていく予定である。 学校・教育関係者への研究趣旨説明は進んでおり、協力の申し出をしている学校は複数確保している。夏休み中に教職員への調査を実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は在日ベトナム人の子どもへの構造的面接調査により、子どもの生活の現状やメンタルヘルスの状況を把握することを柱としているが、子どもへの調査を実施するに当たっては代諾者である保護者への説明および同意が不可欠である。そのため、日本語が苦手な保護者向けにベトナム語に翻訳した説明書、同意書、保護者への質問紙を準備し、ベトナム人児童生徒向けの補習教室や母語教室に参加している子どもらに配布し、保護者に見せるよう説明しているが、以下の理由により保護者からの同意を得るのに難渋している状況である。1)子どもらの説明書、同意書の渡し忘れ、2)子どもが保護者に渡しても、多くの文字を読む習慣がないため読まずに放置する、3)説明書を曲解し、倫理的に配慮される旨を理解されないまま断られる、など。 現在までに22名の子どものデータを収集したが、子どもは大変協力的で、楽しみながら面接調査に応じ、調査項目に出てこない複雑な家庭内の事情や学校での辛さなどを愚痴を言う形で語ってくれている。数年前に在日外国人への調査を行った時期よりも保護者の時間的余裕のなさが強まっている印象を受ける。労働時間が長く、土日も仕事をしていることが多い、話に応じても所要で急いでいてその場で口約束では応じても、署名した同意書が返送されることはない、など、計画書に示した方法では限界があるようにも思われる。わずかな機会を逃さず、信頼関係を強め、誠意を示すとともに、学校関係者など周辺の人脈をより拡大し、様々な方面から協力を仰いでいく予定であるが、同意を得る方法を再考する必要もある。 また、研究代表者が所属先を変わり、集住地区へのアクセスがこれまでのように容易ではなくなったことも今後の進展に影響すると思われるが、協力者との関係性が良好に保たれているため調査継続は十分可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は研究計画の倫理審査後、在日ベトナム人児童生徒の学習をサポートする補習教室、母語能力の維持獲得のための母語教室を拠点に子どもたち、支援スタッフとのラポール形成、強化に努め、11月より本格的に調査説明、依頼を開始した。 保護者への直接的なアプローチが非常に困難であり、そのため前述したように子どもへの調査の同意を得ることに難渋はしているものの、コミュニティのキーパーソンからのサポートや教会での呼びかけなどにより、データは少しずつ収集できており、入力、分析を進めている。質問紙には表れない子どもの苦労や辛さが面接によって語られているため、その分析方法についても検討中である。 保護者への調査はさらに困難であるが、接触することにより、保護者がいかに忙しく余裕の無い生活を送っているか、いかに日本の学校文化・社会への適応が難しいか、子どもの将来が厳しいものか、などが明らかになってきている。データとしては出てこない個人的な体験であっても、相当数が苦労している現実をいかにまとめるか、研究計画の修正、再検討をしていく予定である。今後も各所での呼びかけを継続するともに、新たな拠点となる別の補習教室や宗教施設などを開拓し、データ収集を行っていく予定である。 学校・教育関係者への研究趣旨説明は進んでおり、協力の申し出をしている学校は複数確保している。学校の夏休み中に教職員への調査、コントロール群への調査依頼を行う計画である。 当初の計画には挙げていなかったが、ベトナム本国の精神科医、看護大学教員との協力体制如何によってはベトナムの児童生徒への調査実施の可能性も出てきている。 平成28年度は、調査を継続してデータ収集に努めるとともに、分析できた範囲で少しずつ学会報告し、多文化精神医療保健の専門家との意見交換を深めていく予定である。
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Causes of Carryover |
以下の理由により、本年度に執行する予定であった額を次年度に繰り越して使用するように計画を変更した。1)本研究を始めるにあたって、倫理審査の様式が直前に変更となるなど、申請から承認を得るまでの期間が想定していたよりも長くなり、調査開始時期が遅れたこと。2)子どもへの調査を円滑に進めるために、補習教室や母語教室でのボランティア活動を通してラポールを形成しつつあるが、本務の都合上参加できる日数が限られたり先方のメンバーが交代したこともあり時間を要したこと。3)子どもに調査するために保護者からの同意は不可欠であるが、保護者へのアクセスに難渋していること。4)本務の都合により、予定していた学会への参加を断念したこと。 本務の都合については未確定であるが、1)~3)はほぼ解決しており、次年度に向けて調査を進めていけるものと考えている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は教職員へのインタビューを開始に向けて、録音機器や必要図書文献、文書類印刷用のプリンタインクカートリッジ等に物品費を使用する。旅費は島根から神戸・姫路までの往復交通費、学会参加の旅費として使用する。人件費・謝金は、引き続き子ども、保護者への調査をベトナム語話者の協力を得て行うため、その人件費と、インタビュー調査被験者への謝礼、音声起こしを業者に依頼する際の費用、ベトナム語文書の修正にかかる翻訳代に使用する。その他の費用は、研究者間の会議や情報交換を行う際の会場代や資料代、送料として使用する予定である。
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