2016 Fiscal Year Research-status Report
在日外国人の子どもたちを取り巻く環境とメンタルヘルス
Project/Area Number |
15K11891
|
Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
瀧尻 明子 島根大学, 医学部, 講師 (70382249)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松葉 祥一 神戸市看護大学, 看護学部, 教授 (00295768)
川口 貞親 産業医科大学, 産業保健学部, 教授 (00295776) [Withdrawn]
植本 雅治 神戸市看護大学, 看護学部, 名誉教授 (90176644)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 在日外国人 / ベトナム人 / 子ども / メンタルヘルス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1970年代後半以降に来日した新来外国人のうち、兵庫県に集住し、その数が全国で2番目であるベトナム人の子どものメンタルヘルスとそれを取り巻く環境を明らかにすることを目的として行っている。 一昨年度から昨年度にかけて在日ベトナム人の子どもたちへの構造的面接調査を実施した。保護者の同意を得ることに難渋したことと、研究代表者の異動、転居に伴い対象者との調整が困難であったことにより、予定した件数には達しなかったものの、有効回答数17件を得、分析した。男子6名、女子11名、小学生高学年が13名、中学生が4名であった。父親不在の家庭にあるものが5名(29.4%)と全母子家庭(子どもが18歳未満)の割合6.8%よりも高いという特徴があった。父親とは日本語で話す子どもが6割であり、そのうち父親の話すことがすべて理解できる子どもは7割、自分の言ったことがすべて父親に伝わっていると思う子どもも7割であった。一方、母親とは会話の半分以上がベトナム語という子どもが約7割であった。母親の話すことがすべて理解できるのは7割、自分の言ったことがすべて伝わっていると思う子どもは6割であり、母親の日本語能力が高くないこと、そのため母子間の言語的コミュニケーションがより困難であることが推測された。 尺度を用いた抑うつ状態の評価では、平均得点が12.2点(±5.08)であり、欧米の子どもと比べて高いと報告されている日本の一般の児童生徒の平均9.02点よりも高値であり、在日ベトナム人の子どもの抑うつ傾向が強いことが明らかとなった。コンピテンス尺度では、学習、社会、自己価値のいずれも日本人のそれらと大きな差は認められなかった。不安ストレス調査では、平均が15.7点であり、県内での日本人中学生の12点よりも高かった。抑うつ傾向や不安ストレスが日本人の子どもより高い背景について今後分析を進めていく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
子どもの調査対象は予定数に達しなかった。理由として以下の点を挙げる。 1.これまでと同様、保護者からの承諾を得ることに難渋した。保護者の多くは仕事を掛け持ちするなど、研究趣旨や調査の説明文書を読む時間も惜しむ多忙な生活をしており、研究への理解を得づらいこと、保護者がよく分からないまま様々な書類にサインすることでこれまでに不利益を被る経験を有していることなど、同意書への抵抗感が少なくなく、承諾を得づらかったと考えている。 2.研究代表者が私事により所属変更、転居したため、対象者とアクセスしづらくなったのも遅れの一因である。もともと調査の日時の急な変更やキャンセルが多い対象であり、その際の再調整が、異動直後の不慣れな本務との兼ね合いで非常に困難であったため、調査が滞りがちとなった。 3.研究分担者の変更が重なったことにより、研究者間の連絡調整をとりづらく、捗らなかった。一昨年に1名退職、昨年度末にもう1名退職し、研究組織から離れたため、実際に動けるメンバーが不足していた。在日外国人の子どもという、看護とは直接関わりの薄い対象への調査であり、協力者を募りにくい状況もあった。 今年度は最終年度にはなるが、以上の点を踏まえて研究メンバーを補充し、今後も対象者やその保護者に理解、協力を求め、夏休み頃までは子どもの調査件数を30ケース程度まで増やしたいと考えている。 また、昨年度に実施する予定であった教職員への調査を今年度に繰り下げて実施する予定である。教職員の激務の現状はマスコミでもしばしば報道されている通り、インタビュー調査に応じる時間はとても割けないとの返答であったため、配布または郵送の自記式調査用紙に形態への変更が必要であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在も、島根県から兵庫県まで研究代表者が月に2回程度通い、支援活動の合間にスノーボール式にベトナム人の子どもやその保護者に調査への協力を呼びかけている。今後、30ケース程度を目標にしている。 教職員への調査については、調査方法をインタビューから自記式調査用紙の配布、または郵送、回収へと変更したため、現在その調査用紙を研究者間で作成、推敲しているところである。こちらも夏休み頃に実施できるよう、準備を進めている。 分担研究者が新たに2名加わり、多様な視点から子どものメンタルヘルスを考察していけるものと考えている。 可能であれば年度内にすべて分析を終わらせ、成果を報告することを目指すが、本務との兼ね合い等、状況によっては延長申請して完遂する予定である。報告書を作成し、関係協力団体、ボランティアスタッフ、ベトナム人集住地域の小中学校、教育委員会、希望した保護者等に配布し、子どもたちの現状の周知に努め、より良い支援への一助としたいと考えている。養護教諭等との勉強会や子どもの居場所づくり等にも活用できる。 また、一連の研究活動の中で、経済的自立を図るために看護師を目指す子どもが多いことが分かった。しかしその道のりは日本の子どもたち以上に困難である。看護職の慢性的不足にもベトナム人の自助自立のためにも、彼らを看護教育につなげること、さらには看護系の専門学校や大学に進んだ後の支援のあり方も今後の課題として取り組んでいきたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
次の理由により、使用額が予定した額に達しなかった。1)子どもへの調査が保護者の代諾を得づらく難渋したこと、研究代表者の異動、転居に伴い、調査対象者とのアクセスの調整が困難だったことにより、調査にかかる出費が少なかった。2)教職員への調査を、予定していたインタビューから自記式質問紙調査に変更したため未実施であり、その分の調査員の人件費や謝礼、音声起こしにかかる費用が昨年度は不要となった。3)分担研究者が研究機関を退職したことにより、分担金が返還された。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
子どもへの調査を継続するための島根―兵庫間の調査旅費、教職員への調査実施に当たっての謝礼、調査員への人件費、データ入力にかかる費用、報告書の印刷・製本にかかる費用、11月開催の多文化間精神医学会参加旅費2名分等として支出する予定である。
|