2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K11934
|
Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
川野 祐二 下関市立大学, 経済学部, 教授 (30411747)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉岡 斉 九州大学, 比較社会文化研究科(研究院), 教授 (30174890)
綾部 広則 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80313211)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 原子力防災 / サービス科学 / 科学批判 / 安全 / 利益集団 |
Outline of Annual Research Achievements |
原子力防災の失敗要因を把握するに際して、その責務を負う体制の時代区分をすることは重要である。それは1956年の原子力委員会の時代に始まり、70年代末からは科学技術庁優位の時代に移り、2001年に入ると経済産業省優位の時代へとシフトした。この後2011年に東日本大震災に伴う福島原発事故が過酷事故として出現した。原子力政策をリードする主体が変化するにつれて、その防災体制や安全意識にも変化はあったが、これまでの原子力安全規制がどのようなものであったのかを概括すれば、一貫して日本の原子力防災の脆弱さを見て取ることができる。こうした時代区分の後に、2012年以降は現在の原子力安全規制の中心である原子力規制委員会の時代へと入った。 日本の原子力防災システムはその安全対策において失敗をしたが、それらはハードウェアとソフトウェアの側面から分析できる。ソフトウェアは原子力防災を担う三つの組織系統のいずれもが機能障害に陥ったことを指摘できる。一つは首相官邸に設置される原子力対策本部を頂点とする「政府中枢司令部」であり、二つ目は原子力発電所敷地内で発電会社が中核となる「オンサイト司令部」、三つ目が核施設の敷地の外に置かれて災害対処を行う「オフサイト司令部」である。これらのいずれもが機能不全に陥った。それ以外にも広く歴史的社会的視野から防災および安全対策を弱体化させる要因があった。市民セクターの呼びかけを軽視する行政や社会の認識があり、また科学技術者養成を推進する一方で、安全対策を行う人材養成が不足している教育の問題、被害者視点の欠如、安全神話の形成に寄与してきたマスメディア、そしてこうした社会土壌を作り上げてきた原子力推進体制の主役である原子力村と呼称される利益集団である。こうした原子力防災の社会史を構造的に描き出すことが次年度以降の目的である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の早い段階から、科学技術システムの信頼に関するシンポジウムを開催して、我々研究チームの意図を示すとともに、関心のある方々からコメントをいただく機会を設けた。またゲストスピーカーを交えて新しい知見を得るように企画した。原子力のみならず、現代科学技術の代表格でもある情報分野においても、その安全対策には遅れが見られる。原子力防災失敗の研究は、全ての科学技術分野におけるリスクや安全対策と比較して改めて見えてくることもある。学際的なシンポジウムを開催して、本研究プロジェクトのキックオフを行い、原発防災および科学批判に関心のある論者や市民を交えて研究を進められる体制を構築した。
|
Strategy for Future Research Activity |
各地で行われる原発関連イベント等において参与観察やヒアリングを行い、また研究分担者を含めた各自が調査レポートを持ち寄って会合を行う。それらの研究成果は科学史学会等で発表を行い、一定のまとまりができ次第、各地でシンポジウム等を開催する。こうしたシンポジウムを契機にして、さらにヒアリングをかけて、調査レポートを発展させ、失敗の複合的要因を導き出す。その後、「再稼働問題についての論考」を行い、「原子力防災の改革の方向性」について一定の結論を出すべく議論を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
ヒアリング謝金などの可能性を考慮して、若干の研究費を残した状態にしていたが、謝金を不要とされることが多く、当初の見込み額と執行額が異なることになった。しかし、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含めて、当初予定通りの計画を進めていく。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究計画に変更はなく、当初の予定通り進めていくために旅費・資料代・図書費に使用する計画である。
|
Research Products
(6 results)