2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K11934
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Research Institution | Shimonoseki City University |
Principal Investigator |
川野 祐二 下関市立大学, 経済学部, 教授 (30411747)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉岡 斉 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (30174890)
綾部 広則 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80313211)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 原子力防災 / 産業構造 / 利権団体 / 市民運動 / 科学批判 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究チームのメンバーが中心となり、日本科学史学会全国大会においてシンポジウム「2010年代における日本のエネルギー転換をめぐる諸問題」を開催した。日本政府は原子力防災の失敗を通じて、エネルギー政策を転換すべく一定の方向性を打ち出した。こうしたことから、2010年代に入ってからの行政策上の変化とそれにともなうエネルギー産業界の動向を多面的に論ずる機会を設けた。具体的には再生可能エネルギー全般の動向、水素エネルギー、民主党政権下における原発再稼働問題、そして高速炉もんじゅの廃止について論じた。2010年代の日本におけるエネルギー政策と産業界の変化を合わせて追うことが、全体像を理解するうえで不可欠である。 おそらく資源小国日本のエネルギー政策は、今後の世界のエネルギー政策にも影響を与える。注目すべきは、次世代のエネルギーを、再生可能エネルギーに託すのか、それとも原子力に頼るのかという選択であり、人類史的な分岐点になる可能性がある。2011年の福島原発事故以降の日本政府は、原発のみに依存しないエネルギー資源を模索しており、実際の政策もその方向性を確かに示してはいる。 ただ、脱原発を進める有効な方法の一つは、再生可能エネルギーによる安定的電力供給である。それは技術的な意味だけでなく、経済的・政治的な成功が要求されるものである。原発の既得権益に対してなされる再生可能エネルギー業界の興隆と新たな権益構造の構築は、新しい「鉄の三角形」の誕生といっても過言ではない。こうした権益構造を単に批判的対象として見るだけでなく、多元的民主主義においてなされるべき、政策転換の手法として肯定的に理解することもできる。ただ、こうした利権構造を社会政策の有効な存在と見なすことについては、今後の議論が必要であろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究メンバーは複数の場において、論考を発表し、識者・研究者から評価と批判を受けて各々の研究を進展させた。研究チームは頻繁に連絡を取り合い、互いの進捗状況を確かめるとともに、本研究の成果を次の研究課題へと活かすように仕向けてきた。ただ、研究メンバーの急逝にともない、原子力発電、およびそれに象徴される体制化科学の批判的知見を急ぎ収集整理する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
原子力政策および科学批判の見地から考察してきた分担者の資料を整理分析し、「官」のエネルギー政策を総括する。それに加えて、「産」「学」「民」の3セクターの動向を引き続き把握し、2010年代の脱原子力および再生可能エネルギーへの構造転換の歴史的トレンドを考察する。その成果は、科学史や経営学系の学会で発表するとともに、さらに拡大した研究チームのプロジェクトに発展させるように意図する。 次年度以降にあたっても引き続き着目すべきは、原子力の再稼働が続くなかにあっても、再生可能エネルギーを中心とする新たなエネルギー源の確保という政策が、本当に続いていくのかという点である。それは官僚用語に彩られた政府の政策発表を見るだけでは見抜けない。実際に産業構造がシフトしていくのかという点が重要である。もし原子力発電所の新増設などということにでもなれば、福島原発事故以降の基本的政策は頓挫したと見るべきだろう。一方、原子力依存の体質から脱出するにしても、そのタイムスパンをどのように見積もるかについても注視していく必要がある。ソフト・ランディングで時間をかけて原子力依存を脱皮するのであれば、厳しい原子力防災の拡充が確かに行われなければならない。脱原発運動、差し止め訴訟、言説と世論、業界団体と産業構造の変化について、さらに考察を深める必要がある。
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Causes of Carryover |
分担者の逝去によって当初の使用予定金額と執行額が異なることになった。研究計画の方向性に大きな変更はないが、分担者が進めてきた研究・思想・研究の方向性を把握し、その研究を引き継ぐために分担者個人とそれに関係する資料収集および整理を行う予定である。
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Research Products
(8 results)