2016 Fiscal Year Research-status Report
津波被災地域における農地利用集積の進展に対応した農業用水管理合理化対策の構築
Project/Area Number |
15K11955
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Research Institution | Miyagi University |
Principal Investigator |
郷古 雅春 宮城大学, 食産業学部, 教授 (80735910)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
千葉 克己 宮城大学, 食産業学部, 准教授 (00352518)
森田 明 宮城大学, 食産業学部, 准教授 (70292795)
高橋 信人 宮城大学, 食産業学部, 准教授 (90422328)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 農業用水 / 土地改良区 / 東日本大震災 / 灌漑管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は前年度に引き続き東日本大震災の被災地等の農業用水管理及び土地改良区運営の実態調査並びに大規模農業経営体の農業用水管理の実態調査を行った。 (課題1)農業用水管理と農地利用集積の実態調査:仙台東、亘理、北上川沿岸土地改良区を対象に土地改良区職員等へのインタビュー調査、仙台東土地改良区管内の旧荒浜集落の農業生産法人を対象に農業水利管理の実態調査を行った。亘理、北上川沿岸土地改良区の大規模農業経営体への調査では、農業水利施設の維持管理作業が経営体の大きな負担となっていることを再確認した。またGISを活用し復興農地整備の換地作業と農業用水管理を一体的に効率化できることがわかった。 (課題2)農業用水管理合理化に向けた検討課題の分類・体系化と対策案の検討:名取土地改良区管内の2ha標準区画ほ場の排水路の暗渠化や広幅畦畔による草刈作業の機械化など、ハード面での農業用水管理合理化の効果を確認した。一方で、水田の畑地化を見据えた農業用水管理合理化に向けて、気象や土壌水分等のデータが必要になることから、効率的なデータ収集手法を研究項目に追加した。農業用水管理組織については、新潟県見附市の事例から、組織機能の統合による維持管理作業の共助化の推進が有効と考えられた。調査結果については、農業農村工学会大会講演会で口頭発表したほか、農業農村学会誌に投稿発表した。 (課題3)土地改良区合併の経験知の調査:組織合併だけでなく、組織機能の統合による維持管理作業の共助の推進が有効であることがわかった。仙台東土地改良区管内の荒浜集落において多面的機能支払を活用し旧住民による維持管理共同作業を継続しており、同制度が被災地において有効に活用されいることがわかった。また亘理土地改良区管内の逢隈地区における調査では、従来からの出不足金(罰金)の維持が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.農地利用集積の進展が農業用水の管理に及ぼす影響の調査・整理について:津波被災地における大規模農業経営体への調査では、田植終了後から稲刈直前まで草刈作業が続き農業用水の維持管理作業の負担が大きいことがわかり、仮説の正しいことが検証できた。また、土地改良区や大規模農業経営体による状況や対応の違いがあることから、様々なローカルルールの違いを包含した柔軟性の高さと広域的な組織機能の統合が鍵となることが明らかとなった。 2.ICT技術や農業用水管理体制の再構築を含めた農業用水管理合理化対策の分類・体系化について:2ha標準区画の効果検証を通して、排水路の暗渠化や広幅畦畔の設置など作業量の削減や機械作業化を可能とする設計の効果が高いことを確認した。また農業用水管理のGISによる可視化の有用性を確認した。なお、少数の経営体が地区全ての分水手法等を把握するのは困難だが、渇水時における用水供給のGISによるシミュレーションなど、GISは農業用水管理の可視化と同時に合理的・省力的なストラテジーにも寄与する可能性のあることがわかった。農業用水管理も農地集積も土地と人を対象としており、その基礎となる換地とその実務を担う土地改良区の重要性が明らかとなった。 3.農業用水管理の主体である土地改良区運営の合理化やPIMの視点を含めた農業用水管理合理化対策の構築について:土地改良区により状況の差はあるが運営は安定してきている。しかし被災農地への賦課ができなかったことに起因する財政的危機にみられるように、土地改良区の運営基盤は脆弱ともいえる。その一つの解決手法が合併だが、組織の統合は様々な困難を抱えており、宮城県における土地改良区合併も計画どおりには進んでいない。一方で、土地改良区組合員の激減も予想されることから、合併だけでなく組織機能の統合も選択肢とされるべきであることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の進捗は概ね計画どおりだが、ハード対策については、復興農地整備地区の2ha標準区画における農業用水管理の効果検証を引き続き調査し、定量的・定性的な効果を検証する予定である。 また、水田の畑利用を前提として、気象や土壌条件等の効率的な調査手法を検討し、用水設備を削減する手法等のハード面について研究を進めていく。ソフト対策については、GISによる可視化の有効性の検証を継続するとともに、渇水時等の農業用水管理のシミュレーション等の対策が可能か、またその際の課題等について検討していく。 さらに、農業用水管理も農地利用集積も土地と人を対象としたものであり、換地とその実務を担う土地改良区の重要性がわかってきたことから、GISを活用し、農業用水管理と換地や土地利用調整を合わせた土地改良区支援方策について研究を進める。農業水利施設の維持管理作業の問題については様々なケーススタディがあることから、それらを包含した組織機能の柔軟性の高い統合などの対策について研究を進めていく。 途上国への適用については、マラウイ共和国等の実証的な調査を継続し、農業用水管理に係る日本の手法を、途上国の実情に適合した適正技術として移転するためのケーススタディについてとりまとめていく。 津波被災地における維持管理作業の課題は、近い将来の被災地以外の課題でもあることから、研究の途上であっても、できる限り調査結果等を外部に発信し、課題提起していくこととする。
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Causes of Carryover |
旅費の精算により残額は生じたもの。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の旅費等に含めて執行する。
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Research Products
(8 results)