2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K12240
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高橋 正宏 北海道大学, 工学研究院, 教授 (80355932)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 資源回収 / カリウム / 好塩古細菌 / 生物濃縮 / ゼオライト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、処理水中カリウムをゼオライトに吸着させ、塩化ナトリウム溶液で脱着させる。高濃度のカリウムを含んだ塩化ナトリウム溶液に下水汚泥などの有機物源を加え、カリウムを菌体に濃縮する好塩古細菌を増殖させることによりカリウムを回収するものである。 本年度は、実際の下水処理水を用い、ゼオライトによるカリウムの吸着、脱着の繰り返し運転を行い、ゼオライト吸着搭の通水速度、脱着方法やゼオライトの性能変化を評価した。その結果、通水速度を200m/日でCVを2000倍程度(40時間通水に相当)まで通水することが効率的で、脱着では、カラム体積の4倍量の塩化ナトリウムによる200m/日での押し出し流れにより、吸着量の70~80%を繰り返し回収することができた。12回の繰り返し運転でゼオライトの吸着能は多少劣化したが、実用上は問題がないことを明らかにした。 好塩古細菌によるカリウムの生物濃縮では、下水汚泥を有機物源として用いるために、汚泥中の好塩性細菌が増殖し、カリウム回収能が不安定化する恐れがあった。下水汚泥由来の有機物を基質とし、好塩古細菌を植種したケモスタットリアクターを用い、HRT2~6日, カリウム濃度、800, 4000mg/L、水温 20,38℃の諸条件で運転を行ったところ、好塩古細菌を優占種として培養できる条件は、HRT2日、水温38℃であり、培養液のカリウム濃度は無関係であった。水温20℃、カリウム濃度4000mg/Lの運転時に、次世代シーケンスによる菌叢解析を行ったところ、好塩古細菌OTUの割合は各HRTとも1%以下で、90%以上がGammaproteobacteriaであったが、38℃に戻すとHRT2日で好塩古細菌特有のピンク色の菌叢に復帰した。菌体中カリウム含有率は4.3~6.4%であり、好塩古細菌が優占するHRT2日、水温38℃の条件で、最も高い含有率であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画においては、①下水汚泥を用いた基質による好塩古細菌の増殖が可能であるかの確認、②ゼオライト吸着搭より回収したカリウム濃縮液は、アンモニア等の陽イオンも共存するため、陽イオン共存下での好塩古細菌の増殖、カリウム濃縮の確認、③ゼオライト吸着搭の最適運転条件の確認、④下水汚泥が基質であるため、汚泥中の他の好塩微生物の芽胞等が混入する恐れがあり、微生物学的コンタミネーションによるカリウム濃縮への影響の確認、を行うものとしていた。 このうち①については、ケモスタット型培養器で好塩古細菌の増殖を確認した。②については、ゼオライトからのカリウム回収液中の陽イオン濃度を測定し、好塩古細菌の標準培養液中の陽イオン濃度と等しいか、それ以下であったため、菌の増殖に問題はないと判断した。③に関しては、実際の下水処理水を用い、5Lのゼオライトカラムに吸着、脱着の繰り返し運転を行い、通水速度、通水時間、脱着方法などを評価した。④については好塩古細菌が優占的に増殖する運転条件を見出すとともに、コンタミネーションが起こってもある程度カリウムが生物濃縮されることを示した。 本研究では当初の検討事項にはほぼ解答を得たが、実用化までには検討を要する事項が多い、一つは、ゼオライト吸着搭の通水速度が200m/日で、下水処理の砂ろ過と同程度の値であったことである。施設の建設費を削減するためにはより高速であることが望ましいが、吸着層5Lの小型プラントでは短絡や吸着層の流動化が起こるため、高速吸着の実験が困難であった。二つ目は、ケモスタットリアクターでは、菌体の固液分離が不可能であり、実験的に遠心分離機で分離しているが、実用上は重力沈降分離が必要である。また、ケモスタットでHRT2日の運転を行うと、培養液中に有機物やカリウムがかなり残存してしまうため、培養液からのカリウム回収効率が悪化することでも課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
11、で挙げた課題のうち、ゼオライト吸着搭の高速化については、大型実験装置での確認が必要であるが、経費の関係で今回は検討課題から除外する。 ケモスタットリアクターで確認できない、重力沈降分離と、基質の効率的利用については、下水処理場のように生物反応リアクターと沈殿池を分離し、沈殿池からのリアクターへの菌体の返送を行う実験装置により確認が可能であると考えるが、沈殿池を機能させるためには、最低、数リットルの沈殿池が必要であり、使用する流入水(1日数十リットル)を用意することは不可能である。このため、小型の連続式回分型リアクター(SBR)を用いて、重力式固液分離の確認と、HRTとSRTを独立して制御することによる基質の効率的利用を確認する。 ケモスタットリアクターより得られる菌体は、分散しやすい菌体であるが、菌体を含むリアクター流出水を10時間程度静置すると菌体は沈降する。SBRにて当初は長めの沈殿期間を取り、徐々に沈殿期間を短縮することにより、凝集能力のある菌株を選択できる可能性がある。ケモスタットリアクターではHRT2日でカリウム回収量が最大となったが、リアクター流出水中には、有機物やカリウムが高濃度で残留している。リアクター内の菌体濃度を高めることによりこれらの利用率を上げることが課題である。SBRではHRTとSRTを独立して操作できるため、菌体濃度を上げ、短時間のHRTでカリウム回収量を増大できる可能性がある。 ケモスタットからSBRにリアクターを変更することによって、凝集能力のある菌株が選択されるため、ケモスタットで優占種となった好塩古細菌がSBRでも優占種になるとは限らない。このため、SBRの運転が安定した時点で、菌体収率やカリウム回収率を評価したうえで、次世代シーケンスによる菌叢解析の後に、優占菌株の単離を行い、それらの増殖速度やカリウム含有率などを評価する予定である。
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