2015 Fiscal Year Research-status Report
ブーゲンビル戦の二つの記憶―草の根からの和解に向けて
Project/Area Number |
15K12792
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
大西 正幸 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (10299711)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
寺田 匡宏 総合地球環境学研究所, 研究部, 客員准教授 (30399266)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | オセアニア / ブーゲンビル / 沖縄 / オラミ村 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず、プロジェクトの端緒となった沖縄のブーゲンビル戦体験者T氏とジェイムズ・タニス氏(研究協力者)の対談録の確認とT氏の追加インタビューを行い、ブーゲンビル戦に関する詳しい情報を得ると同時に、その情報をもとに、ブーゲンビル戦の転換点となったと思われる南部オラミ村での村民による日本兵襲撃事件について追跡調査した。岩本(研究協力者)の防衛庁史料室での調査、大西と岩本の文献調査、キャンベラの戦争記念館でのオーストラリア側の史料探索である。これらの調査の結果、その実態がかなり明らかになった。この成果は、2016年5月19-22日にグアムで開かれるPacific History Conferenceで、岩本が発表する予定である。(T氏とタニス氏の対談録は、大西・石川・バデノック(著書3)と大西(著書4)で出版。) また、2015年10月に京都でメンバー全員による会議を開いた後、大西・岩本・寺田(研究分担者)の3名で沖縄を訪問、ブーゲンビル沖縄遺族会の慰霊祭に参列、摩文仁の丘平和祈念館やひめゆり祈念館、T氏宅などを訪問した。ブーゲンビル戦と沖縄戦に対する、沖縄出身の戦争体験者やその遺族の視点、その体験の継承のあり方を知ることができた。また戦争の記憶の展示という観点から見ると、沖縄のこの二つの祈念館は、被害者としての民衆の視点が強く示されている点でユニークなものであることが確認できた。(戦争の記憶の分析に関する業績は、寺田(著書1, 2)。なお、著書2は、ヴェトナム語訳も出版されている。) ただ、オラミ事件に関するこれまでの情報では、沖縄出身の兵士に関する言及がなく、その詳細はまだ不明である。2016年3月に岩本がオラミ村で現地調査を行う予定であったが、現地の政情不安のため延期された。アメリカ側の記録の調査も残っている。オラミ事件の実態をより詳細に明らかにするとともに、日本側と現地住民との和解を進めることが、今後の課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「概要」で述べたように、沖縄でのインタビュー調査、文献調査などを通して、オラミ事件の実態や、この事件のブーゲンビル戦全体の中での位置づけが明らかになりつつある。対談記録の詳細の分析、戦争の記憶にオーラルヒストリーが持つ意味の分析についても、すでにその成果が出版されている。本研究の中心テーマであるオラミ事件とその和解がもつ歴史的意味については、この5月19-22日にグアムで開かれる国際学会で発表される。このように、研究を始めてまだ1年あまりであるが、調査の進展もその成果出版も、予想以上のペースで進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
上に述べたように、オラミ事件と和解の動きに関しては、この5月19-22日にグアムで開かれる国際学会で、岩本が発表の予定である。またこの学会のあと、オーストラリアの歴史研究者でPNG Oral History Projectを主宰しているJonathan Ritchieが沖縄を訪問することになったので、岩本・大西と3名で、琉球大学の国際沖縄研究所でセミナーを開催する予定である。その場でも、パプアニューギニアにおける戦争体験のオーラルヒストリーといった、より広い視点から、このプロジェクトの持つ意味が検討されることになる。(岩本の業績(著書5)を参照。) なお、本年度の研究においては、オラミ村での実地調査が特に重要であり、今後、岩本が、現地協力者のタニス氏と連絡を取り合いながら、なるべく早い時期に実施する予定である。また、この事件に関する、熊本・鹿児島などの九州出身者からの情報収集、アメリカ側の資料を通しての情報収集を進め、その詳細をより明らかにすることを目指す。これらの調査を通して、住民同士の和解に向けての具体的な道筋をつけたい。
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Causes of Carryover |
2015年12月の、キャンベラの戦争記念館における大西・岩本の資料調査、2016年3月の、岩本によるブーゲンビル南部オラミ村における現地調査等、追加調査が必要になったため、2016年度分から20万円を前倒しにしたが、後者は、直前になって現地の政情不安により遂行を延期することになったため、多少の残金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
延期した、岩本によるブーゲンビル南部オラミ村における現地調査は、現地の政情不安が改善次第行う予定であり、繰り越し分は、2016年度分の予算と合わせ、その調査費用の一部に使用する予定である。
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Research Products
(7 results)