2015 Fiscal Year Research-status Report
精神性の進歩に関する自然発生的説明の検証―フロイトのモーセ論が示す推論装置の射程
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15K12816
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中村 靖子 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (70262483)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
シュラルプ ハンス・ミヒャエル 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (00585565)
安川 晴基 名古屋大学, 文学研究科, 准教授 (60581139)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 精神性の進歩 / ルーマン / 啓蒙主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
27年度は、授業期間外を利用して、計4回(全日で2日連続が3回、全日で一日が1回、のべ7日間)にわたってカール・アイブルのテクストを手がかりとして読書会を開催した。このテクストは、初期啓蒙主事の時代から若きゲーテに至るまでに、小説というジャンルの成立、地域性に縛られない広範な読者層の獲得、教養市民層の出現などの社会的・文化的背景について考察したものである。アイブルは、現代的な生物学的、社会史的、社会論理学的な手法を用いて、文学のポエジー性>Poetizitaet<、そして文学と文学に関わりないようなものの相関関係という文学の二つの側面を結び付け、ポエジーを論じる。アイブルによればポエジーはここ200年から250年の間に大きな意味を得てきた。なぜなのか。二つの次元、ポエジーを産出可能にする生物学的次元と歴史学的次元を関連させ、ポエジーの成立を読み解く必要がある。その際、思想的枠組みとして援用されるのがルーマンの社会システム論である。西欧社会のシステムが大きく変動し形成し直されるなかで、人間の精神構造にも何らかの変様が生じたという可能性は否めない。ルーマンの社会システム論によれば、有機体は、環境により選択的にコントロールされ、また有機体が環境と選択的に関係することにより発展する。感覚>Sinn<は高度化する選択の中で生じる。選択を重ねる人間の行為は、別のようでもありうるという意識を常に伴うことになる。それはつまり体験される世界は、世界の一部にすぎないということだ。そこでアイブルは非世界>Nichtwelt<という概念を導入する。非世界とはもう一つのもの、定義されぬもの、定められぬものである。ここから、改めて「ポエジーの成立」という事象が,歴史的現象として捉えられるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の成果は、最終年度にシンポジウムを開催することを目標としているが、これまでの読書会を通じて、共通の理解、共通の議論の土台を確保することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度も引き続き読書会を開催し、アイブルのテクストを手がかりとしつつ、人間の精神世界が劇的な変様を被ったとされる啓蒙主義前後の文化的徴表を拾いつつ、検証し、議論を重ねる。その都度、研究成果は各自で論文として発表する。
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Causes of Carryover |
購入予定をしていた図書で絶版になっており年度内に入手することができなかったものが多数あったためと、11月にドイツとパリへの海外出張を予定していたが、パリで生じた同時テロのため中止したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
パリの比較解剖学博物館などで資料収集するため海外出張を行う。
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