2015 Fiscal Year Research-status Report
考古・歴史・地質学的複合解析による災害履歴地図の開発
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15K12949
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
村田 泰輔 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, アソシエイトフェロー (00741109)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 災害考古学 / 災害痕跡 / 地震 / 火山噴火 / 防災・減災 / データベース / 自然災害 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、考古発掘調査の成果を中心に、地質学、歴史学的研究から読み取った、主に地震、火山噴火に伴った自然災害の痕跡について、GISを導入して既存の活断層や地盤情報と共にまとめ、災害予測や減災に向けた高度な解析や迅速な判断を可能にする「災害履歴地図」を開発することを目的としている。災害履歴地図の作成範囲としては、奈良県を主軸とし、比較として埼玉県、香川県、鳥取県の災害痕跡についても整理を進めている。 平成27年度は、発掘調査成果について、奈良県約8千地点、埼玉県約6千地点、香川県約2千地点、鳥取県約2千地点の情報の読み取りおよび入力を終了した。情報の読み取りは調査報告書を中心に、現在発掘が進められている現場に出向き、実際の災害痕跡について調査・分析・記録を行った。その過程で、起因が地震・火山噴火に伴ったか否か不分明な土石流や洪水等や、家屋倒壊や火災等の副次的災害痕跡について、データの分類設定への課題が生じた。そこで起因区別できない災害痕跡にも対応し、1)地震、2)火山噴火、3)水害、4)副次的な災害、5)その他、6)発掘調査地点の6分類を設定した。このうち水害には、洪水、津波、増水等を含む。火災や家屋倒壊などは、副次的災害に分類することとした。また災害痕跡の認められなかった地点については、発掘調査地点に分類する。災害痕跡の認められない地点の記載は、地質的背景との対応を明確化するだけでなく、避難経路の検討など減災への重要な情報となろう。 さらに今年度の最も重要な成果として、GISデータベースの基本構造の決定が挙げられる。具体的には、災害痕跡分類を緯度・経度、住所、遺跡概要情報と併せ、「遺跡位置・概要情報」という地点情報とし、各地点に基本層序情報、堆積時期、災害痕跡層位等を「地質情報」として吊り下げることで、表層地質断面図を作成しやすいデータ構造として設計することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
データベースの基盤情報となる考古発掘調査成果について、データ読み取りデータの読み取りおよび入力は、奈良県約8千地点、埼玉県約6千地点、香川県約2千地点、鳥取県約2千地点について終了した。この点数は全体の約40%であり到達実績としては少ないが、報告書からのデータの抽出項目の選定と内容の検証方法、さらにデータベース構造の検討を行いつつ進めた経緯があり、研究初年度の進展としては予想以上の進捗であった。約1万8千地点を越えるデータ読み取りから、発掘調査報告書に記載される情報の特性がおよそ把握されたため、28年度はかなりの進捗が期待される。 データベースの構造設計は、現在の地図上で示される地点情報として「遺跡位置・概要情報」、さらにその地点情報に吊り下げる「地質情報」の2つの柱によって構成した。「遺跡位置・概要情報」には調査地の緯度・経度、住所、遺跡概要情報、災害痕跡区分、典拠書籍、遺跡番号を記載する。典拠書籍については書誌名だけでなく、NII書誌番号を載せることで、ネットワーク上で典拠書籍を検索できるようにした。災害痕跡については、存在が確認された地点のみならず、確認されなかった地点についても「発掘調査地点」として表示させる。これらの地点情報は、国土地理院の提供する地図データサービスを用いて表示させている。一方「地質情報」については、基本層序、平均層位、堆積時期、災害痕跡層位、堆積環境を記載する。遺跡位置・概要情報、地質情報共に、テキスト情報による内容提示とコード化によるGIS情報化が可能な形を採った。GISデータベースの基本設計が完成し、データの可視化が進んだことで隣接地間の地質等の比較が容易となったため、次の課題となる表層地質断面図の作成が容易となった。次年度以降も大きな進捗が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、初期計画通り27年度の情報集成作業、表層地質断面図作成作業を進める。この作業は「点」のデータを「線」のデータにすることに当たり、この成果の集積によって災害発生時期、災害の種別がまとめられ、視覚化する。同時に表層地質情報が集積することによって、「面」となる過去の地形分布図の作成が可能となる。そこで28年度は、新たに古地形図作成作業に入る。特に災害の発生時期と対応する地形面を主軸に作業を進める予定である。 史資料との対応については、宇佐美龍夫著「最新版 日本被害地震総覧[416]-2001」(東京大学出版会、2003年)のデータをはじめ、東京大学史料編纂所、奈良文化財研究所文化遺産部等と連携し、情報整理を始める。 国土地理院、防災科学技術研究所、産業総合研究所等の所有する災害に係わる地図、地形、地質情報との連携については、27年度より一部担当者と連携協議を進めており、28年度内での調整を目指す。
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Causes of Carryover |
平成27年度に予定していたデータ入力等の人件費・謝金について、学生アルバイトを募集したが人員が集まらず、翌年度繰り越しとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に請求した60万円に、平成27年度より繰り越した25万7676円を加えた85万7676円が平成28年度の直接経費合計となる。28年度は、当初計画していたデータ入力等のアルバイト人員について、雇用時間計を増やして大幅な進捗を狙いたい。また、データ集成によって発生した資料の規模が莫大となることが分かったため、資料管理ファイルや棚の購入が必要となっている。平成27年度からの繰越金は、それらの物品費、人件費・謝金に充当したいと考えている。
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Research Products
(7 results)