2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K12959
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
神谷 智昭 琉球大学, 法文学部, 准教授 (90530220)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
武井 弘一 琉球大学, 法文学部, 准教授 (60533198)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | エンブリー / 須恵村 / 映像人類学 / 古写真 / 日本近世史 / 歴史教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
神谷(映像人類学)は、まず基礎資料の整理として、エンブリー写真(約1700枚)とキャプションの照合作業を行った。これにより写真の撮影された場所・時期・撮影意図が明確になり、聞き取り調査の話者選定や調査項目立案等を効率的に行えるようになった。そして基礎資料を基に、8月には現地調査を実施した。今年度の現地調査では、集落内を踏査しながら、写真が撮影された場所を特定し、80年間に生じた変化を記録した。踏査する過程で住民に対する聞き取り調査も行ったが、エンブリー滞在時を記憶している話者を見つけたことは大きな収穫であった。その他、あさぎり町教育委員会およびあさぎり町役場の協力を得て古老の方へ聞き取り調査を行い、写真を見ながら眠っている情報を引き出すという方法の有効性を確認できた。 武井(日本近世史)は、文献や史料の整理および読み込みを中心に行った。まず、現あさぎり町に合併する以前の旧5町村から出版された自治体史を収集し、旧須恵村およびその周辺地域の歴史や昔の生活の様子を把握した。並行して古文書の収集も行ったが、まず隣の多良木町で見つかった地方文書の分析を通じ、近世における球磨地域の農村とエンブリーが調査を行った時代の農村の差異と共通点を明らかにする作業を行った(継続中)。また、地元新聞を資料として、エンブリー滞在時に人吉球磨地域で起こった重要な出来事を拾い出し、同時期の日本および世界の動きと対照表を作ることで、『須恵村』に描かれた民族誌的現在を日本史および世界史の中に位置づけて把握する作業を行った(継続中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
神谷(映像人類学)は、基礎資料の整理、現地調査等、本年度の実施目標をおおむね達成できた。特に現地調査に関しては、聞き取り調査の話者をどのように確保するかというのが初年度(本年度)調査の課題であったが、あさぎり町教育委員会およびあさぎり町役場との連携を通じて話者を確保する方法に目処がついたため、次年度以降の現地調査がスムーズに行えるものと考える。 武井(日本近世史)もまた、基礎資料の収集・整理、史料収集等、本年度の実施目標をおおむね達成できた。近世地方文書の収集に関しては、あさぎり町教育委員会および人吉球磨地域の学芸員の方々と頻繁に情報交換する体制を整えたため、今後、様々な史料が得られると考える。新聞資料の活用は、『須恵村』の内容を従来とは異なる角度から読み解くうえで画期的な試みであり、映像人類学的研究にとっても有益な視点を与えてくれるものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目(平成28年度)の調査・研究は、基本的には当初の計画通り、初年度行った調査・研究を深化・精緻化していく方向で進める予定である。そのうえで、今年度の調査を踏まえて、以下の2点を新しく計画に加えたい。 1つめはあさぎり町におけるシンポジウムの開催である。研究課題に掲げる「エンブリーの見た須恵村の復原」を達成するためには、聞き取り調査および史料収集の点において、地元住民の協力が不可欠である。シンポジウムを開催して、住民に広く我々の研究の内容・目的・意義を知ってもらうことで、今後の調査研究が行いやすくなるだろう。フロアとの対話の中で、それまでの調査内容を確認することもでき、新しい情報が得られる可能性も高い。また、シンポジウム開催は、研究成果を地元へ還元するという観点からも必要であると考える。 2つめは海外研究者との連携である。エンブリーの須恵村におけるフィールドワークの成果は『須恵村』『須恵村の女たち』の2冊にまとめられているが、そこには調査されたこと全てが記されているわけではない。当時の生の調査データは、他の研究資料の中に埋もれていると考えられるが、エンブリーが急逝したために、研究資料自体が現在どこにあるのかもはっきりしていない。おそらく、エンブリーと縁の深い大学(コーネル、シカゴ、イェール、ハワイ等)に所蔵されていると予想されるため、当該大学の研究者と連携をとって研究資料の収蔵場所を特定したい。その中から須恵村に関する新しい資料を発掘することで、須恵村研究をさらに深めることが期待できる。エンブリー新資料の発掘・分析自体は将来の課題となるだろうが、今後情報収集に努めたい。
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Causes of Carryover |
当初、須恵村に関する在野の研究者である田中一彦氏を招聘して調査助言などを伺う計画であったが、あさぎり町教育委員会やあさぎり町役場および学芸員の方々との連携が予想以上に上手く進んだため、至急調査助言をいただく必要は無くなったと判断。次年度、シンポジウムを開催するという案が持ち上がったため、田中氏にはシンポジウムに参加していただき、意見交換を行う方が調査研究を進める上でより有益であると考え、当初予算計上していた田中氏招請費(旅費)を次年度に持ち越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述したように、次年度(平成28年度)にあさぎり町においてシンポジウムを開催予定であり、次年度使用額分は田中一彦氏招聘費として使用する計画である。
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