2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K12959
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
神谷 智昭 琉球大学, 法文学部, 准教授 (90530220)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
武井 弘一 琉球大学, 法文学部, 准教授 (60533198)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | エンブリー / 須恵村 / 映像人類学 / 古写真 / 日本近世史 / 歴史教育 / 人類学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
神谷(映像人類学)は、基礎資料(写真)をもとにしながら、現地踏査および聞き取り調査を実施した。これにより、エンブリーの調査は須恵村外のかなり広い範囲におよぶことが確認され、エンブリーの目的が従来言われていたような「農村研究」にとどまらず、周辺の都市部まで含む人吉・球磨地域の社会人類学的研究にあった可能性が指摘できる。また、写真からは、『須恵村』には書かれていない情報や、現在の住民にも知られていない情報が読み取れることも確認され、写真を利用してエンブリーが調査した当時の須恵村の姿をより活き活きと描きだせることが確認できた。 武井(日本近世史)は、自治体史と地元新聞を中心に調査・分析を実施した。今年度は特に、ある1人の郷土史家の活動や人的ネットワーク、人物像に関する情報収集と分析をおこなった。その分析を通じて、エンブリーの須恵村調査には地元の知識人達も深く関わっていたことや、『須恵村』の出版が地元の知識人達に与えた影響、日本民俗学界と球磨地域の知識人との関係といった、新たな事実が浮かび上がってきた。これらについては今後さらなる展開が期待できる。 さらに、研究協力者の全京秀韓国ソウル大学名誉教授の調査を通じて、コーネル大学、シカゴ大学、イェール大学、ハワイ大学などにエンブリー博士が遺した資料がどの程度あるかについて、大まかに把握できた。 28年度は、地元住民を対象に、これまでの研究成果の公開と意見交換を目的としたシンポジウムを開催したことも大きな実績である。シンポジウム開催を通じて、それまで気づかなかった写真内の事物に関する情報や、エンブリーの須恵村滞在時における人間関係などを知ることができた。なによりも、エンブリーについて関心をもつ、あるいはエンブリー滞在当時(またはその直後)の状況を知っている現地の人びとと関係を構築できたことは重要な成果で、今後の調査研究に大きく寄与すると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
神谷(映像人類学)は、前年度に整理した基礎資料を活用して調査・研究を深化・精緻化させるという本年度の目的をおおむね達成できた。特に、写真から『須恵村』に記述されていない多くの情報を読み取れることが実証できたことで、本研究課題の目的達成に大きく近づいたと考える。 武井(日本近世史)もまた、資料のさらなる収集・整理、史料収集等、本年度の実施目標をおおむね達成できた。特に、資料分析を通じて、エンブリー滞在時の地元知識人達の活動や『須恵村』出版が地元に与えた影響などを明らかにできたことは、本研究課題の新たな展開の可能性を拓いたといえる。 また、海外の大学におけるエンブリー資料の所蔵状況の把握についても順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目(平成29年度)の調査・研究は、基本的には当初の計画通り、前年度におこなった調査・研究を深化・精緻化していく方向で進める予定である。そのうえで、今年度の調査を踏まえて、以下の2点を新しく計画に加えたい。 1つめは、あさぎり町におけるシンポジウムまたはワークショップの開催である。本年度のシンポジウム開催を通じて、地元住民と対話や意見交換をおこないながら調査・研究を進めていく方法が、本研究課題においては非常に有効であることが確認された。そのため平成29年度も、シンポジウムまたはワークショップを開催したい。 2つめは、地元の小中学生に対する模擬授業の開催である。本年度のシンポジウムにおいて、地元住民の方々から、地域の歴史や文化を子供達に継承していくことの必要性が強く訴えられた。したがって本研究の成果の一部を、模擬授業のかたちで地元の小中学生に伝えたい。これは、昨今その必要性が叫ばれている研究成果の地元還元という観点からも重要であると考える。 平成29年度は計画の最終年度であるため、研究成果のとりまとめもおこなう。その過程で、3年間の調査研究を通じて見えてきた新たな課題を整理し、次の展開へとつなげる準備をおこなう。
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Causes of Carryover |
当初計画では、平成29年度にシンポジウムあるいはワークショップを開催する予定はなかったが、本年度のシンポジウム開催により、地元住民と対話や意見交換をしながら調査研究を進めるという方法の有効性が確認されたため、平成29年度にもシンポジウムあるいはワークショップを開催することにした。シンポジウムあるいはワークショップ開催に際して、研究協力者である全京秀韓国ソウル大学名誉教授を海外から招聘するための旅費が必要となるため、その分を残して次年度使用額として繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述したように、次年度使用額分は、平成29年度開催予定のシンポジウムあるいはワークショップへの、全京秀韓国ソウル大学名誉教授招聘旅費として使用する計画である。
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