2015 Fiscal Year Research-status Report
エンパワーメント型アートセラピーの構成要件の解明と評価基準の開発
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15K13105
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Research Institution | Kobe University of Welfare |
Principal Investigator |
兼子 一 神戸医療福祉大学, 社会福祉学部, 講師 (30441413)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アートセラピー / エンパワメント科学 / 社会学理論 / 地域福祉 / 子育て支援 / 能力開発 / 心理療法 / 芸術諸学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、平成24-26年度に実施した「アートセラピーの全国実態調査」(JSPS科研費24653153・研究代表兼子一)によって把握された「エンパワメント型アートセラピー(以下EAとも記す)」の将来性と必要性に着目し、その発展に寄与する目的で着手した。 日常生活圏で実践されているアートセラピーは、医療において発展してきた精神病理学的(psychopathological)アートセラピー(以下PAとも記す)とは出自を異にし、保健、福祉、教育、能力開発などの多分野で個別的かつ自律的に発達してきた。EAという概念は、この混然とした状況をより正確に説明できるものとして、前研究の最後に仮説として提案したものである。またその際、包摂範囲の広い「アートエンパワメント(以下AEとも記す)」という概念も抽出していた。それゆえ本研究の推進の前提として、エンパワメント概念の歴史的展開、現在のエンパワメント理論を参照しつつ、EA概念の妥当性および定着の可能性についての検証と、EAやAEなどの説明概念のより厳密な確定作業が必要であった。そこで初年度はエンパワメントおよびEAについての学術的整理と理論的考察を行った。さらに、一方でEAとPAとの境界および関係性、他方でEAとAE(エンパワメント要素のあるアート活動)との境界および関係性の整理を行った。そして関連学会にて本研究で体系化した説明概念について発表を行い、賛同を得ることができた。 とくに医療分野では、精神疾患の治療としてのアートセラピーと、機能回復の補助や患者のQOLの向上、患者への心理的支援のためのアートセラピーとが複合的に実施されている。エンパワメント概念の導入で混乱が整理され、活動方法・内容の評価がしやすくなるという点で概念の有効性が確認できた。また、一連の作業の結果、構成要件の基軸となる仮説が確定できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初の研究計画では、平成27年度に、エンパワメント型アートセラピーの構成要件を解明のうえ評価基準の原案を作成し、その編成のためにヒアリング(インタビュー)およびアンケート調査を行う予定であったが、前述の「研究実績の概要」にあるように、この作業推進の前提として、仮説として提案した「エンパワメント型アートセラピー」概念の有効性、妥当性の検証とこれに関係する諸概念との関連性を厳密に確定する作業が必要であった。さらにEA概念の周知と研究者内での一定の承認の獲得が必要と判断したため、それらの作業に従事した。それゆえ研究計画に遅れが生じている。 しかしながらこの作業をすることで、同時にEAの構成要件の基軸が明確になったため、評価基準と指標の原案作成の方向性も定まった。今後、これらの原案作成および編成が迅速に進められると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に計画していた「エンパワメント型アートセラピーの評価基準」の原案作成および編成を平成28年度に行い、さらにこれを平成29年度に精査し、成果の公開等を行う方針である。以下、原案作成・編成・精査の見通しについて概略を述べておきたい。 平成27年度の研究成果として、医療・保健、福祉、教育、能力開発の各分野で多様かつ個々に展開しているEAを体系的に把握し、構成要件および評価基準の基軸が明らかとなった。すなわち、EA活動の実態を説明するものとして「エンパワメント」概念を見い出した。福祉や教育領域で用いられるエンパワメントの理念と目標――①当事者(被支援者)の潜在能力を信用し、それを活性化する、②当事者が主体的に思考し、問題解決や方向選択ができるよう側面から支援する、③当事者と支援者は対等で協働的な関係性を築く、④これを通じ支援者も達成感・効力感を得る――はEA活動を構成する要件としても同定してよい。多様なEA全体に共通する評価基準の策定作業は、上記の構成要件に沿いながら、どのようにアートセラピーが(病理学的アートセラピーの専門家から見ても)安全で有効に活用でき、また各分野の制度や組織に縛られない自由なあり方を追求できるのかを検討しながら進められることになる。なお、ここでの評価基準とは構成要件をどの程度満たしているかということになる。そのため、ヒアリング(インタビュー)を中心に調査を実施し、理論の精緻化の後に予算と状況を鑑みてアンケート調査を実施しするか判断し、最終調整することが有効であると検討し直している。 以上の推進方策にあたり、平成28年5月時点で前年度からの研究協力者:石原みどり(甲南大学人間科学研究所特別客員研究員)・小村みち(関西大学非常勤講師)に加え、連携研究者として竹中均(早稲田大学教授,90273565)が参加、理論面で協力する。
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Causes of Carryover |
「今後の研究の推進方策」にあるように、平成27年度に計画していた「エンパワメント型アートセラピーの構成要件の解明と評価基準」の原案作成および編成のために実施予定であったヒアリング(インタビュー)およびアンケートを研究計画の変更によって初年度に実施しなかった。ヒアリングと参与観察は一部実施したが、多くは平成28年度以降にヒアリング(インタビュー)およびアンケート(中止の場合もある)を行うこととなったため、それらに必要な予算が次年度に繰り越されている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度ではエンパワメント型アートセラピーの評価基準とその指標を編成するためのヒアリング(インタビュー)を5-10件行う予定である。アンケートについては現段階で有意義な結果を得られる確信が無いため、調査手法をヒアリングに一本化する場合もある。 またヒアリングには、原案作成の段階で精神病理学的アートセラピー(PA)とエンパワメント型アートセラピー(EA)を折衷して実践している研究者2-3名に研究協力者として参画してもらい、彼/彼女らの意見をヒアリングすることで評価基準と指標の妥当性を検証することも含まれている。
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Remarks |
科学研究費助成事業「アートセラピーの全国実態調査」(平成24-26年度、課題番号24653153)の研究成果発表のWebページと兼用である。
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Research Products
(3 results)