2015 Fiscal Year Research-status Report
子育て支援「業界」の実証的研究-新制度論による定量的・定性的分析-
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15K13199
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋本 鉱市 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (40260509)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白旗 希実子 東北公益文科大学, 公私立大学の部局等, 講師 (10735658)
石井 美和 桜の聖母短期大学, その他部局等, 講師 (90713206)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 子育て支援 / 業界 / ロジック / ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近年になって新たに成立・展開してきた「子育て支援」という領域について、これを制度的な「組織フィールド」(=「業界」)として捉え、①その成立要因とプロセス、②業界のアクターとそのロジック・戦略、③アクターごとの領域(管轄権)をめぐる関係性などを焦点とし、特に全国レベルならびに福島市、酒田市などをケースとして、政策文書・各種メディアなどを対象とした計量分析、各アクターへインタビュー調査など定量的・定性的な手法を援用することにより解明を試みようとするものである。 本年度の実績としては、まず福島市の調査では、A短期大学の子育て支援広場のスタッフB氏へ半構造化面接(3回)をおこなった。インタビューデータはTEMで分析し、B氏が言語臨床の分野から子育て支援業界に参入する経路を図式化した。その結果、医療界の変化や言語臨床の学問的なトレンドがB氏の経路に影響していることが明らかとなり、支援観が共有できる場がないケースでは支援継続が困難になる可能性、支援観をめぐる葛藤や齟齬が顕在化する可能性が高まっている可能性などが示唆された。酒田市の調査では、同市で実施された先行研究のレビューをおこない、そこから同市の子育て支援において中心的な位置にあると考えられるNPO法人を抽出し、理事長C氏への半構造化面接を実施した。その結果、C氏のライフ・イベントや地域の学習資源(大学など)がNPO立ち上げに影響を与えているとともに、行政の施策の展開(地域振興課、子育て支援課など)がNPOの事業内容の変遷に影響を与えていることなどがわかった。また全国レベルでは、国会議事録から子育て支援に関わる検索を行い、データベースの一部を構築するとともに、新制度学論による組織フィールドに関する国内外の理論的・実証的な先行研究を渉猟・講読した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は上記3つの論点に関して、①の業界としての制度化過程については、とくに業界を牽引する「制度的企業家」の役割に着目し、②については、各アクターの共通認識と相互のズレを焦点化する、また③については、新しく設けられた各種の関連資格を中心とした各アクターのネットワーク分析を行うことなどを試みようとしている。具体的な分析方法としては、定量的・定性的な手法を相補的に組み合わせて解明を進め、(a)公式の政策・行政文書、業界雑誌、新聞記事などをテキスト化し、その計量テキスト分析からイシューとアクターの抽出を行い業界生成のプロセスをトレースする、(b)各アクターへのインタビューによる質的調査などによって、彼ら(特に最も影響力の大きい制度的企業家)の有するロジックと戦略を析出させる、(c)これと並行して、各アクターの相互ならびにそれぞれ内部の関係性を解明するネットワーク分析を行う、などを3年間の目標としている。 本年度の達成度としては、①に関しては、国会議事録からデータベースの構築を進め、福島市、酒田市両市の行政関係資料などの収集(たとえば、福島市「子育て支援ハンドブック(えがお)」、酒田市「酒田っ子すくすくプラン(酒田市子ども・子育て支援事業計画)」など)、先行調査の収集とレビューを行った(例えば、酒田市:家庭教育の資源調査など)。②に関しては、福島・酒田両市で子育て支援に関わる中心的な関係者にインタビューを実施し(例えば酒田市: NPO法人理事長、福島市:子育て支援広場スタッフなど)、TEM分析を行った。③のネットワーク分析についても、全国ならびに福島・酒田両市における子育て支援に関わるアクターを把握し、28年度に分析予定のデータベースの構築を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
計画期間の2年目以降は、27年度の作業を引き継ぎ、理論的な文献渉猟とデータベース整備という基礎的な作業と、それを利用したデータ分析の作業を手がけ、中間的な研究成果のとりまとめを行いつつ、それらを統合する作業を進める。上記3課題についての具体的な方策は以下の通りである。①業界の生成の契機とプロセスについては、国会・内閣府や山形県・福島県、酒田市・福島市において開催された「子ども子育て会議」などの議事録をもとにデータセットを構築し、計量テキスト分析用のソフトウェアを用いて分析を実施する。②のアクターのロジックと戦略については、酒田市においてはNPO法人へのインタビュー調査に関する分析を進めるとともに、子育て支援に関わる国及び地域の全体的な施策の中で、学童保育事業者がどのようなロジックと戦略を用いて、組織の存続と拡大を図ってきたのかについて、学童保育NPOや幼稚園の学童保育の関係者などへのインタビュー調査を行う。福島市については、子育て支援広場代表へのインタビューをおこない、27年度調査と比較する。また、つどいのひろば事業、ファミリーサポートセンターなどの子育て支援事業を実施する組織、発達支援センター代表者へのインタビュー調査を実施し、組織間の比較をおこなう。③のアクター間のネットワークについては、内閣府、山形県・福島県、酒田市・福島市の「子ども子育て会議」の委員の属性情報を収集し、ネットワーク分析を試みる。これら3課題ごとの研究成果は、教育社会学会ならびに東北教育学会などでの大会報告や、学会査読誌に投稿する。
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Causes of Carryover |
昨年度は福島市、酒田市におけるフィールド調査の準備とインタビュー対象者とのラポール形成に主眼が置かれたため、研究メンバー全員での調査で使用する計画であった旅費部分に次年度使用額分が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は福島市、酒田市のほかに他の地域も視野に入れつつ、インタビュー対象者を増やし、またフィールド調査も深掘りしていく計画であり、このため昨年度分の旅費の適正な執行を進めていく。
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Research Products
(2 results)