2017 Fiscal Year Research-status Report
次世代”原子核”時計のキーマテリアルTh-229mの大量製造と検出
Project/Area Number |
15K13396
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
菊永 英寿 東北大学, 電子光理学研究センター, 准教授 (00435645)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 核励起 / 原子核 / 核異性体 / 標準 / トリウム / 放射化学 / 核化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
質量数229のトリウム同位体は,これまで知られている中で最も低い励起エネルギーを持つ核異性体(Th-229m)が存在しており,そのエネルギーは7.8 eVと報告されている。このエネルギーは真空紫外領域であり,一般的な原子核と比べ極端に低い。そのためTh-229は次世代”原子核時計”となる可能性がある。本研究の目的は,これまで誰も成功していないTh-229の直接励起によりTh-229mを製造し,その確かな検出を試みることである。 本年度は昨年の結果に基づき,Th-229を直接励起するための放電励起装置の再設計を行い,実機の作成を行った。今年度に作成した放電励起装置は,放電時の分光分析が可能なように真空窓付きのガラスセルを備えており,検出器と線源の距離が数cmまで近づけられるように小型化している。さらにモリブデン電極による放射線の自己吸収を避けるために,電極は可能な限り肉抜き・小型化している。作成した実機を用いて放電テストを行い,100 V程度の低電圧でも安定した放電ができることを確認した。現在は電着を施した電極での試験を行うとともに,各種検出器の設置を進めている。 また,新たなTh-229試料の調製を行った。昨年度,国内の研究所から輸送し,同位体比を測定したU-233試料から陰イオン交換カラム法を用いてTh-229を分離した。アルファスペクトロメトリーで定量したところ,約350 kBq(0.05 mg)のTh-229を新たに入手することができた。得られたTh-220試料のTh-228/Th-229放射能比は0.2程度であった。これはTh-228量が測定の妨害になる本研究でも,十分に利用することができる原子数比である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度はTh-229を直接励起するための放電励起装置の再設計を行い,実機を作成した。検出すべきTh-229のγ線の検出効率を増やすため,放電励起装置のコンパクト化,および分光測定を行うための真空窓の追加を行った。さらに電極による放射線の自己吸収を避けるために,電極は可能な限り肉抜き,小型化を行った。これらの装置再設計により,実機の作成に遅れが生じ,貴重なTh-229を使用する前の予備実験を十分に行うことができなかったため,今年度は放電励起実験まで到達することができなかった。 しかしながら,昨年度国内の研究施設より輸送したU-233の処理を行い,新たに貴重なTh-229試料の増量を達成することができた。これによりTh-229実験の統計精度を上げるために必要な時間を短縮することができ,実施できる実験回数も増やすことができると考えられる。 以上より,まだ放電励起装置を用いた実験は遅れているが,分光装置の追加やTh-229の増量など他の点では着実に進んでいるため,全体としてはやや遅れていると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は補助事業期間延長申請を行い実機を用いたTh-229の励起実験を目指す。放電励起実験には,電子照射によりターゲットが損傷する危険がある。そのため,まずトリウムと性質が似ている第4族元素の放射性同位元素を用いた放電励起実験を行い,分光分析器や高純度Ge検出器を用いてターゲットに対する放電励起の影響を確かめる。 これと同時に放電励起装置の実機を用いて,電極に第4族元素を電着したときの長期放電安定性を確かめる。長期間放電を安定させることができれば,その分,統計精度を上げることができ,放電励起確率が低い場合でも有意なデータを取得することができる。具体的には電流値,電圧値を自動でモニターできるように測定系を組み,放電しながらそれらの変動を確認する。電極に第4族元素を電着した後の加熱処置や電極間距離を変えることで放電安定性にどの程度違いが出るか確かめ,条件を最適化する。 また,更なるTh-229の増量に向け,U-233の入手・分離について手続きを進める。使用できるTh-229量を増やすことでも統計精度を向上させることができる。平成30年度中のTh-229の増量を目指す。
|
Causes of Carryover |
Th-229の放電励起装置は耐熱性や放電耐性を考慮し,モリブデンで作成するため放電部分だけで一式50万円程度必要となる。実機が不具合なく完成するまで改良が必要となるため,性能試験が完了していない現段階では,次年度使用額として残す必要がある。 次年度使用額は,放電励起装置に不具合があれば装置改良に用いる。不具合がなく本実験が実施可能な場合は,Th-229本実験用の電極及び,核燃料で汚染される可能性があるため専用のものが必要な高真空用排気装置に使用する予定である。
|