2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K13479
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福嶋 健二 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60456754)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | クォーク物質 / カイラルフェルミオン / 真空構造の変化 / 強電磁場中の物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に強磁場中でのクォーク物質の応答、回転系でのクォーク物質の基底状態の変化、物性系における回転偏光電場中での物質の応答について示唆に富んだ成果をあげることができた。まず強磁場中のクォーク物質について、重いクォークの拡散係数をあからさまに計算し、それが磁場に平行な成分と垂直な成分で質的に全く異なる振る舞いをすることを示した。この発見は、相対論的重イオン衝突で観測されている重いクォークの楕円形フローが、従来の理論予想よりも大きいという問題に対して、定性的な説明を与えている。つぎに回転系について、回転を表す計量を入れた計算によって、回転の効果で質量の起源となるクォーク凝縮(カイラル凝縮)が小さくなることを発見した。また回転系に磁場を入れることにより、あたかも有限密度のクォーク物質に磁場を印加したかのような応答が見られることも確認した。このことより、フェルミオン系を回転させると、回転の効果は有限化学ポテンシャルの効果と等価である、ということが結論される。現在、この発見を中性子星の状態方程式の構成に取り入れるべく、より詳しく計算を進めているところである。さらに磁場と回転偏光電場が共存する場合に、量子異常によってトポロジー的に誘起される電荷が発現することを見出し、我々はこの効果を「カイラル・ポンプ効果」と命名し、ディラック半金属を用いた物性実験での検証可能性について議論した。回転系での計算とよく似た結果ではあるが、回転電場を表すベクトルポテンシャルを入れた計算であり、そのような時間的に周期的なポテンシャルが存在するときの定常状態の問題は一般にフロッケ理論によって取り扱えることが知られている。我々はフロッケ理論に高周波数展開を組み合わせて、トポロジー的な電荷を具体的に計算した。現在、高周波展開を用いない、より厳密な取り扱いによる計算を目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は曲がった時空中での「強い相互作用」の理論を研究する予定で、実際、加速度系におけるスカラー凝縮(例えば超流動成分など)に関して論文を発表した。この仕事は数学的には慎重な考察に基づいてなされた計算の結果であるが、加速度によってスカラー凝縮の値が大きくなる、という主張が従来の定説とあまりに違いすぎたために、論文雑誌の査読者からの理解がなかなか得られなかった。現在も複数の査読者たちに我々の主張の正当性を訴えているところである。そのため年度初めには研究計画への遅延が心配されたが、その後、方針転換し、回転偏光電場、強磁場、強磁場と回転の共存する系について、非自明な結果を得ることができた。これらの結果はいずれも査読付き論文雑誌に出版・受理されている(ただし最後の強磁場と回転の共存に関してのみ、査読者から好意的なレポートが送られてきて論文の体裁への修正が要求されたのち、まだ最終的なエディター判断を待っている状態)。特に、回転偏光電場や、回転系に関しては、つい最近、相対論的重イオン衝突実験の観点から急速な勢いで研究がなされつつあり、その勢いに先んじて、先駆的な仕事をすることができたのは、結果的には良い判断だったと考えている。また、今年度の成果は、単発的な仕事ではなく、発展性のある内容の基礎にあたる部分であり、次年度以降継続してさらに興味深い結果へとつながる期待を持っている。その意味においても、今年度の成果は長期計画上、意義深いものであり、総合的に見て、研究の進捗状況は、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
回転偏光電場を利用したディラック半金属の物性のさらなる理論研究を進めている。これは回転系のフェルミオン系と極めて密接な接点を持っており、最初は気づかずに回転偏光電場と、回転系を別々に研究していたのだが、特にフロッケ理論による適当な基底の変換をすると、ほとんど同じ理論形式で書かれていることがわかる。特に面白いのは量子異常の効果が本質的であることが、従来とは全く違う形で理解される点である。このような純理論的な展開と並行しながら、今後は、実験への具体的な提案をしていきたいと考えてる。そのためにも高周波展開を排除したより完全な計算が必要となる。また回転系の核物質・クォーク物質に関しては、中性子星の観測と比較できるような物理量を計算することが必要である。実際、現在、中性子星の回転軸からの距離の関数としてカイラル凝縮を計算し、状態方程式を導出しようとしている。またいわゆる「カイラル渦効果」が最近、世界的に注目を集めつつあり、我々の計算はただちにカイラル渦効果へも応用できる。具体的にはカイラル渦効果への有効質量の影響を定量的に調べることを計画している。また、より観測を重視したところでは、これまでの計算の延長として、中性子星(より正確にはマグネター)からの黒体輻射で出てくるフォトンの偏光度の計算を進めている。この計算は非常に複雑な計算ではあるが、全て完了すれば、偏光フォトンの長時間測定によって、中性子星の表面磁場の強さを直接決定できるようになるはずである。これまでは中性子星の表面磁場の強さは、回転周期と、周期の時間変化率だけから推定されており、もしも直接測定が可能となったら、そのインパクトは計り知れないものがある。実際、そのような観測実験が2020年までに計画されており、それまでに理論予言を確立すべく研究を推進している。
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Research Products
(20 results)