2015 Fiscal Year Research-status Report
永久磁石材料における重希土類代替元素としてのCeの価数制御法の探索
Project/Area Number |
15K13525
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
松本 宗久 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 元素戦略磁性材料研究拠点, NIMSポスドク研究員 (30374888)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
斉藤 耕太郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 特任助教 (10712622)
上野 哲朗 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 元素戦略磁性材料研究拠点, NIMSポスドク研究員 (20609747)
宍戸 寛明 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80549585)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | スピン再配列転移 / 磁気異方性 / XAS・XMCD測定 / モンテカルロシミュレーション / LDA+DMFT / 第一原理計算 / 金属間化合物合成 / 電気伝導・比熱バルク物性測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
最も安価な希土類元素であるCeを希土類永久磁石化合物において活用することを目指し、3価(磁性)と4価(非磁性)の間で揺らぎがちなCeの価数をいかに3価に固定してCeの4f電子の磁気異方性を活用できるかという限界に挑戦した。希土類永久磁石化合物CeCo5において関連化合物CeCu5がCeの3価極限に位置することに注目し、CoとCu置換系の組成制御により価数制御を実現し、物質合成・理論計算・物性評価の全てのアプローチを複合させることで、Cuの中間濃度領域における4f電子起源の有限温度磁気異方性発現の兆候をとらえた。 CeCo5の結晶構造においてCeが3価であれば4f電子は容易面磁気異方性を出す。これがCoの容易軸異方性と競合して起こす有限温度スピン再配列転移を磁気異方性発現のprobeとして活用した。Ce(Co,Cu)5系をCu濃度10%刻みで合成しバルク物性(電気抵抗・比熱)測定を行い、Cu濃度40%-60%において5K前後で有限温度相転移を観測した。第一原理的に構成したスピン模型からは、CeCo5のCe価数制御において10Kオーダーの低温で再配列転移が起きることが予測される。極低温ではあるがCe4f電子の有限温度磁気異方性の予測・観測に成功した。 研究の副産物としてCu濃度60%超において重い電子系と呼ばれる特異な電子状態を見出した。希土類永久磁石中におけるCuリッチ相の保磁力への寄与の観点からも興味ある結果である。第一原理計算と動的平均場近似を組み合わせた計算、バルク物性測定、X線吸収分光の全てを用いた。 これらの成果の一部は日本物理学会第71回年次大会において発表された。Cu中間濃度領域における磁気異方性とスピン再配列転移、Cu高濃度領域における重い電子系の実現それぞれについて投稿論文を二件作成中である。組成制御の高効率化と関連化合物全体への展開が最終年度の課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
価数制御を最も確実に実行でき、また過去の希土類永久磁石研究においてintrinsicな保磁力と呼ばれる未知の問題を残しているR(Co,Cu)5(R: 希土類)の一点にターゲット化合物を絞り、Cu濃度制御により価数の制御された系における磁気物性解析の深化と方法論開発を進め、3価に十分近づいたCeから極低温ながら磁気異方性を取り出せることがわかった。 A) 希土類永久磁石関連化合物と B) 重い電子系関連化合物の両面からCeの価数の傾向を調べるという当初の計画を単一化合物系Ce(Co_{1-x}Cu_{x})5における組成制御により包括し [i.e. A) x<0.6 B) x>0.6 ]、それぞれについてA)強磁性状態における異方性とB)非磁性状態における特異な重い電子系の発現という結果を得た。 B)のために予定しているCeRh3B2の測定解析について、KEKの倉本義夫先生との磁性理論に基づく議論内容をもとに、琉球大学の大貫惇睦先生から試料をいただく合意をとりつけ、有限温度磁気異方性測定に進む段階である。 方法論開発について、関連化合物全体にわたり磁気物性の傾向を俯瞰する新しい方法としてマテリアルズ・インフォマティクス(MI)に注目し、所属機関NIMSに昨年度7月発足した情報統合型物質・材料研究拠点、および所属組織元素戦略磁性材料研究拠点と連携し、情報科学・磁性材料研究者のネットワーク構築を行った。2015年10月NEDO主催の日米二極会合においてCe(Co,Cu)系について講演し、米国側から発表のあった合金試料合成・物性測定を高効率に行える3D printerの情報を収集した。Co-Cu比率を連続的に制御し物性を最適化する3D printerの活用を試みる。MIと高効率試料合成・測定を理論計算と連動させ、初年度開拓の方法論を磁石材料関連化合物全体へ展開することが今後の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定していた希土類永久磁石関連化合物全体 RT5, R2T14B, RT12, R2T17 [R=希土類 T=Fe,Co] にわたり展開し、Ce4f電子起源の磁気異方性の耐熱限界を突破することが今後の課題である。このために二通りの有限温度物性探索経路をとる:1)価数揺動状態からCeの3価極限を目指す当初案と2)価数揺動を逆手にとり、特定の空間軸の方向にのみ価数揺動を誘発させることにより発現する磁気異方性を活用する逆方向からの案である。後者はCeRh3B2の強磁性のメカニズムについてKEKの倉本義夫先生と非公式に続けてきた磁性理論の観点からの議論に基づく。 1) 磁石関連化合物は一見多岐にわたるもののCeCo5の結晶構造を構成単位とする全てに共通する構造も見られる。Fe/Coからなる3d電子共通基盤の上にCeの4f電子が埋め込まれる際にCeができるだけ3価極限に近づく条件をあぶり出す。初年度に構築した情報科学研究者とのネットワークも最大限に活用する。 2) 価数揺動を積極的に活用する物質設計の方向として、CeRh3B2の有限温度磁気異方性のメカニズムを価数状態・磁気異方性の温度特性測定と理論計算の両面から調べる。永久磁石化合物中にCeRh3B2様の局所構造を埋め込み、高温磁気異方性に寄与させる物質設計指針を探る。 そもそもの動機である高温保磁力にたちかえり、磁気異方性と微細組織を経由して発現する保磁力の他に、電子状態自体から発現するintrinsicな保磁力の可能性を念頭に、関連非磁性化合物の有限温度磁気特性からもCeの活用法を探索する。Sm-Co磁石のCuリッチ相、最近明らかになってきたNd-Fe-B磁石のGaリッチ相Nd6Fe13-xGa1+xの役割を調べ、初年度に見出したCe(Co-Cu)5 におけるCu濃度60%以上の系が副相に使用可能かダイナミクスの観点から検討する。
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Causes of Carryover |
当初計画では磁石材料関連化合物を一通りカバーしてCeの価数状態の傾向を系統的に調べ、有限温度磁気異方性を出す3価が実現されやすい結晶構造・物質系を絞り込む予定だったが、代表的化合物の結晶構造の共通構成要素がCeCo5により与えられること、CeCo5のCoとCuの置換比率制御によりCeの3価極限に近づけることが確実であることがわかったため、その詳細な有限温度磁性研究に初年度を費やした。計算対象が絞り込まれたため、初年度では既存の計算資源の範囲内で理論計算関連の任務を果たすことができた。 また関連化合物全体をさらう大規模計算の実施にあたり、大量のデータ生成・解析の効率を桁違いにあげられる可能性のある新規手法としてマテリアルズ・インフォマティクスに注目し、情報収集と研究者間ネットワークの構築を行ったが、計算資源を最大限に活かせる環境と知見が揃ったところで専用計算機を2年目に導入する計画である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究課題専用の並列計算機システムを平成28年度前半に導入し、希土類永久磁石関連化合物間の磁性の傾向を大規模かつ高効率に実行する任務にあてる。また価数の温度依存性を精密に測定する放射光実験を遠隔の機関(広島大学放射光施設HiSOR)において実施するための旅費の一部に次年度使用額をあてるほか、初年度にバルクの相転移として兆候をとらえたCe(Co,Cu)5系のスピン再配列転移を中性子散乱による磁気測定で微視的に裏付けるための諸費用が次年度使用額から支出される。
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Research Products
(5 results)