2015 Fiscal Year Research-status Report
中間圏・熱圏間鉛直輸送研究のボトルネック「鉛直風」の絶対値観測への挑戦
Project/Area Number |
15K13575
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Research Institution | National Institute of Polar Research |
Principal Investigator |
江尻 省 国立極地研究所, 研究教育系, 助教 (80391077)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 鉛直風 / 中間圏・熱圏 / 共鳴散乱ライダー観測 / 光ヘテロダイン干渉法 |
Outline of Annual Research Achievements |
共鳴散乱ライダーによる3周波風速観測で、中緯度帯の鉛直風のような小さな風速を観測するためには、送信レーザーの絶対周波数をかなり正確に知る必要がある。例えば鉄(Fe)の共鳴散乱(386.1 nm)を利用する場合、5 m/sの風速を観測するためには、13 MHz以上の絶対精度が必要。このために、本研究では種レーザーと送信レーザーの周波数差を光ヘテロダイン干渉法により測定する。平成27年度は、これの検出装置の設計、製作などのハードウェア開発と、測定データを取得し、記録するソフトウェア開発を行った。
光ヘテロダイン干渉法で得られるビートの検出システムの開発は、まず、僅かに周波数が異なる2つのレーザー光(連続光)を使った実験で、システム構成を確立し、次に、共鳴散乱ライダー観測で使用されるレーザーパルス光と種レーザーの連続光を使って、ビート検出実験を行った。共鳴散乱ライダー観測のデータ質を落とすことなく、ビートを検出するために、レーザー光を打ち上げミラーまで導くステアリングミラー(>98%反射)からの抜け光(もともと送信に使われていない光)を利用した。また、既に稼動中の共鳴散乱ライダーにも付加的に組み込み可能な汎用性の高いものにするために、偏光保持シングルモード分岐ファイバーとフォトダイオードを組み合わせた、コンパクトで設置場所を選ばないシステムを構築した。連続光とパルス光を用いた光ヘテロダイン干渉法によるビート検出実験結果については、国際シンポジウム(極域科学シンポジウム)、および研究会(大気ライダー研究会)で報告した。
同時進行で、合成したレーザー光を受信する高速ディテクターからの出力信号をオシロスコープで計測、パソコンに取り込み、信号を周波数解析することで、種レーザーと送信レーザーの周波数差を算出するソフトウェアの開発も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り開発研究を進められているため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に開発、製作したビート検出システムと測定用ソフトウェアを組み合わせて、国立極地研究所で開発中の共鳴散乱ライダー観測機能を持つ高機能ライダーシステムに組み込み、ビート検出実験を行いながらの3周波風速観測を試みる。現在、ビート信号計測に用いているオシロスコープはオーバースペックであるため、より適当かつ省スペースなデジタルオシロスコープに変更する。
中間圏・熱圏の境界領域には複数の金属原子層が存在するが、その中でも比較的密度が高く、地上からの共鳴散乱ライダー観測において強い散乱信号が期待できるFe原子層を利用して、鉛直風の絶対値観測を行う。一般的に、中緯度帯ではこの領域の鉛直風は1時間程度平均すると0 m/sと仮定できるほど弱いと考えられているため、1時間以下の高い時間分解能で観測、解析を行う必要がある。一方で、鉛直風に1時間以下の変動を引き起こす短周期重力波は、鉛直波長が数十kmと非常に長いので、高度方向には数km積算しても(高度分解能が数kmであっても)、十分に有効な鉛直風速が得られる。国立極地研究所の高機能ライダーシステムの場合、3周波風速観測の最高時間分解能は通常3分で、最高高度分解能は15 mである。受信された共鳴散乱信号強度によって時間高度分解能を変えながら、送信レーザーの絶対周波数を用いて解析を行うことにより、鉛直風絶対値の時空間構造を明らかにする。この成果は、国内外の学会、研究会で報告すると共に、学術論文としてまとめる。
ソフトウェアについては、試験観測を行いながら更に改良を加え、最終的には、観測中もリアルタイムで周波数解析を行い、送信レーザー周波数の時間変化をディスプレイ上でも確認できる、実用的なソフトウェアの完成を目指す。
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Causes of Carryover |
ビート信号計測機器として最適なものを選ぶために、まずは所属機関が所有するオシロスコープや、メーカーからレンタルしたデモ機等で試験的な測定を行ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
試験測定を通して選択したデジタルオシロスコープを購入する予定である。
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