2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K13641
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村田 靖次郎 京都大学, 化学研究所, 教授 (40314273)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 酸素分子 / 常磁性 / 燐光発光 / 内包フラーレン / 開口フラーレン |
Outline of Annual Research Achievements |
巨大な開口部をもつフラーレンC60誘導体に、高圧の酸素ガスを室温で接触させることにより、酸素分子を内包させた。得られた化合物を素早くNaBH4と反応させることにより、開口部のカルボニル基の一つをアルコールへと変換させ、内包された酸素分子の放出を抑制することに成功した。このように合成された酸素分子内包開口体は、HPLCにより単離され、その物性評価をおこなった。1H NMR および13C NMRを測定した結果、水分子内包体のスペクトルと比較して、著しくブロードなシグナルを与えることがわかった。これは内包された酸素分子の常磁性に起因していると考えられる。また、ESR測定の結果、内包された酸素分子の三重項間の遷移に由来するシグナルが明確に観測され、酸素分子内包体が基底三重項をもつことが示された。磁化率測定においては、反強磁性転移を伴わない常磁性の振る舞いが観測され、キュリー・ワイスの法則に従うことがわかった。これは、多孔質錯体 (PCP) およびカーボンナノチューブ (SWCNT) 中に内包された酸素分子が、分子間で反強磁性相互作用を示す結果とは明瞭に異なり、内包された酸素分子がフラーレン骨格により効果的に隔離されていることを示している。さらに、酸素分子内包体は前述のPCPおよびSWCNTsと比較して、19倍以上の最大磁化率を示し、高いスピン密度を保持していることがわかった。また、内包された酸素分子は溶液および固体状態において、特徴的な近赤外発光を示し、理論計算の結果と組み合わせることで、酸素分子の束縛された運動がその発光に関与していることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた酸素分子を内包した開口フラーレンを合成し、単離精製することに成功している。その固体状態における常磁性を明らかにした。さらに、可視光照射による燐光発光を観測したところ、予想外のピーク分裂が観測され、これは内包酸素分子の制限された回転運動に由来するものであることを明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
極低温下でも常磁性を失わない性質を利用し、別のラジカル種を固体状態で配列させることにより、磁性の研究へと展開する。
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Causes of Carryover |
C60の開口体内部に酸素分子を導入し、安定な基底三重項分子の合成に成功した。当初平成29年3月までに物性測定ならびに理論計算を行い、成果取りまとめを行う予定であったが、得られた化合物が特異な発光挙動を示すことが明らかとなった。この現象を明らかにすることは、本研究における重要な課題であるため、物性測定に関する追加実験を行う必要が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度において試薬・シリカゲル・消耗品の購入に当てる。
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