2015 Fiscal Year Research-status Report
加水によりトウガラシ果実から発散される新規の揮発性咳嗽成分
Project/Area Number |
15K14652
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
土井 元章 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40164090)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 園芸科学 / 野菜 / トウガラシ / 咳嗽成分 / 加水分解 / 揮発性物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
トウガラシの果実は,カプサイシノイドの強い辛味とともにスパイシーな香りをもち,香辛料として世界的に広く利用されている.しかし,果実を口に入れて咀嚼すると激しく咳き込む場合があり,野菜としての利用を制限している.研究代表者は,これらの辛味品種の果実の中には切断して水をかけると,食さなくとも激しい咳き込みを起こす咳嗽成分が発散される品種があることを見出した. これまでトウガラシの咳嗽成分は辛味成分であるカプサイシンやジヒドロカプサイシン等のカプサイシノイドであるとされ,これらの成分が気道粘膜の痛覚を刺激することで咳き込みをもたらすと考えられている.しかし,カプサイシノイドやその類似物質であるカプシノイドについては不揮発性であり,口に入れた場合には咳嗽性をもつことはあっても,近くに果実があるだけでは咳嗽成分とはならないと考えられる.すなわち,水と反応して生成される咳嗽成分は揮発性であり,香気成分中に発散される物質である.また,加水分解により揮発性となってこの物質が発散される可能性が推察される. 本研究では,フレッシュな果実を切断して加水することで揮発性の咳嗽成分が発散されることを端緒として,カプサイシノイドとは異なるトウガラシの咳嗽成分の存在を明らかにするとともに,この咳嗽成分の多少と辛味性との関係,果実の発育ステージや乾燥との関係を明らかにし,トウガラシの新規咳嗽成分に関する知見を得ることを目的としている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
辛味品種の‘福耳’と‘日光’,非辛味品種の‘京みどり’を栽培し,得られた果実を適宜実験に供試している. 辛味品種の‘福耳’と‘日光’については,青果を縦切りにして水を吹きかけると弱い咳嗽性が認められた.また,胎座部を傷つけてから水を吹きかけると咳嗽性が強くなった.‘京みどり’においては,いずれの場合にも咳嗽性は認められなかった. ‘福耳’の切断果実から発散される香気成分を固相マイクロ抽出(SPME:DVB/CAR/PDMS)により抽出してGC-FIDにより分析した後,果実に水を吹きかけて再度揮発成分を捕集して分析した.両者のクロマトグラムを比較することで,発散量に大きな変化のあった成分ピークを選び出したところ,水を吹きかけることによって増加した成分では,もともと多く検出されていたピークでさらに増加したピークが2つ,もともとほとんど発散されていなかったピークで増加したピークが2つあった.後者の2つのピークの有無を‘京みどり’のクロマトグラムにおいて確認したところ,RTの早いピークが‘京みどり’で比較的大きく検出される果実があったものの,もう一方のピークはいずれの果実でも加水前の‘福耳’と同じトレースレベルであった.なお,発散量が減少したピークは7つと,比較的多数あった. ‘日光’の乾燥果実においても,胎座部を壊してから水を吹きかけると咳嗽成分が強く発散されることが明らかとなった.乾燥果実では,発散される香気成分ピークが少ないことから,今後日光の乾燥果実を分析材料としてピークの絞り込みと特定が行えるものと期待される. 以上から,揮発性の咳嗽成分としての候補をGCクロマトグラムの比較からいくつかに絞り揉むことができており,進捗状況はおおむね順調に進展していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
発散香気成分の種類が青果に比べて格段に少ないことを利用して,‘日光’の乾燥果を使ったピークの絞り込みを行う予定である.なお,青果の胎座部を傷付けてから水を吹きかけると咳嗽性が高まるという知見は,咳嗽成分の特定に有効ではあるものの,傷つけによって揮発性成分のピーク数も大幅に増えることから,この実験系は咳嗽成分の特定が乾燥果実で進んだ段階で検証実験に利用することとしたい. 今後,青果および匂い嗅ぎGCを使って候補ピークのさらなる絞り込みを行った上で,候補ピークについてGC-MSを利用した同定を行う予定である.さらに,これまでの分析結果も活用しながら,実験計画に沿って,咳嗽成分と辛味性との関係,果実発達に伴う咳嗽性の変化,咳嗽成分の発散部位等を明らかにする予定である.
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Causes of Carryover |
既存のガスクロマトグラフィーを改造して匂い嗅ぎGCを設置する予定であったが,GC-FID分析による咳嗽成分ピークの絞り込みを最優先したため,GCの改造に要する費用が残額となっている.また,研究成果の学会発表を予定して旅費を計上していたが,少なくとも咳嗽成分のピークが特定されてからと考え学会発表を次年度に見送ったことから,旅費に残額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
匂い嗅ぎGCについては,パックドカラムでの改造を行い,TCDベントからの揮発性成分の分画捕集ができるようにGCを改造する費用として使用する. 旅費については,研究成果発表およびGC-MSデータの解析作業の謝金として使用する予定である.
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