2016 Fiscal Year Research-status Report
黒麹菌フェノール酸脱炭酸酵素(PAD)の特性解析と古酒熟成を目指した育種研究
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15K14700
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
仲宗根 薫 近畿大学, 工学部, 教授 (80340834)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 泡盛 / 古酒 / 泡盛黒麹菌 / PAD / 乳酸菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究計画は、共同研究先において使用されている2種の実用黒麹菌のゲノム配列のドラフト解析を行うことであった。実験室黒麹菌株NBRC4314株との比較ゲノムによりその共通点と相違点を、ゲノム・遺伝子構造と機能や発現の観点から解析を行うこととした。また本研究課題であるPAD遺伝子の発現誘導の機構を探るべく実験を行った。 さらに泡盛発酵もろみ中に存在する黒麹菌・酵母に加え、その他(第3の)微生物の中でも、クエン酸存在下においても生き延びる乳酸菌の分離を試みた。 2種の実用黒麹菌は各々異なる種であり、ひとつはAspergillus luchuensis (KBN2012株)、もうひとつはA. saitoi (KBN2024株)である。これら黒麹菌のドラフトゲノムについて次世代シーケンサーを用い、数億個の塩基配列断片を得た後アセンブルを行い、数百個のコンティグ配列を得た。実験室黒麹菌A. luchuensis NBRC4314株とKBN2012とのゲノム配列の比較では塩基配列の相違はほとんど見いだされず、KBN2024との比較では数%程度の違いが見いだされた。また本研究課題であるPAD遺伝子の発現誘導実験においては、米ぬかなど複数の誘導物質の添加により本遺伝子発現が調節されていることも明らかとなった。 泡盛発酵もろみから分離された第3の微生物-乳酸菌-は、16SrDNAの解析の結果、Lactobacillus plantarumであることが明らかとなった。これは典型的な植物乳酸菌であり、泡盛もろみの原材料が米であることから当然の結果であると判断される。また本微生物のゲノム上にもPAD遺伝子が見いだされ、フェルラ酸アナログにより発現誘導が見いだされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究実績の概要で説明したように、研究計画は、2種の実用黒麹菌のゲノム配列のドラフト解析を行うことであった。実験室黒麹菌株NBRC4314株との比較ゲノムによりその共通点と相違点を明らかにすること。また本研究課題であるPAD遺伝子の発現誘導の機構を探ること、さらに泡盛発酵もろみ中に存在する第3の微生物-乳酸菌-の分離を試みることであった。平成28年度においては、これら研究計画が全て実施され、当初の目的が達成された。 2種の実用黒麹菌A. luchuensis (KBN2012株)、A. saitoi (KBN2024株)のドラフトゲノム配列(コンティグ)の、実験室黒麹菌A. luchuensis NBRC4314株との比較は、塩基配列の類似や相違性を明らかにしたばかりでなく、栄養要求性(pyrG, niaD, sC, ligD等)や有用酵素(アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ等)に係わる遺伝子群の解析にも大きく貢献した。 泡盛発酵もろみから新たに分離された乳酸菌L. plantarum N4株は、これまで泡盛もろみから分離されたという報告例がない。ここでは同種の基準株NBRC15891株との増殖、糖資化性、酵素の有無などの種々の比較を行った。増殖比較においては、N4株の方がクエン酸存在下でも良好に増殖する傾向が観察された。糖資化性においては、乳酸菌の特徴である「乳糖」の資化性が欠落し、またβ-ガラクトシダーゼの活性も見いだされなかった。この結果は、分離された乳酸菌N4株は、泡盛もろみ中にたまたま存在した微生物ではなく、泡盛もろみに特有な乳酸菌であることを示唆している。N4株ゲノム上のPAD遺伝子がフェルラ酸アナログにより発現誘導されることより、発酵過程における4-VG生産のための本菌株の積極的利用も考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、2種の実用黒麹菌のゲノムドラフト配列、PAD遺伝子の発現誘導の解析、泡盛発酵もろみ中からの乳酸菌の分離を試み、計画通りの研究実績を得るに至った。またこれら結果の一部は学会発表を行い、成果の一部は既に原著論文として投稿中である。 このような成果に基づき、平成29年度は、PAD遺伝子発現に関与する転写因子群の探索と解析を次世代シーケンサーを用いて解析する。そのために実験室黒麹菌A. luchuensis NBRC4314株、2種の実用黒麹菌A. luchuensis (KBN2012株)、A. saitoi (KBN2024株)を含めた、3種の黒麹菌の栄養要求性(pyrG, niaD, sC, ligD等)株の作成と、それに基づいたPAD遺伝子調節因子群等の破壊株の作成を行うことで、上記計画を実施する。またこのような解析から有用酵素(アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ等)の解析も可能となることからこれら有用株の育種も計画に組み込む。 また上記研究結果と併せて、泡盛発酵もろみから新たに分離された乳酸菌L. plantarum N4株の有効利用も視野に入れる。N4株ゲノム上のPAD遺伝子がフェルラ酸アナログにより発現誘導されることより、発酵過程における4-VG生産のための本菌株の積極的利用も考えられるためである。この目的の為には、本菌株のPAD破壊株を用い、もろみ中での黒麹菌と乳酸菌とのPAD機能の役割の貢献度の比較が可能になる。 上記の研究成果を併せて、本研究課題である。PADの特性解析の解明を行い、古酒熟成の効率化を進めることで研究成果の取り纏めを行いたい。
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