2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K14710
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉村 徹 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (70182821)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 発酵熱 / ATPase |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、発酵熱の生成機構や意義を明らかにするとともに、発酵熱を発電に利用する方法の開発を目的としている。本年度は、発酵熱は呼吸によって得られたエネルギー(プロトン濃度勾配)がATP生成とカップリングすることなく熱として放出されるものであるとの可能性を、以下の実験によって検証した。 まずE. coliのFoF1-ATPaseの変異株であるatpAおよびatpC株を0.1%、0.2%、0.4%グルコースを含むM9最小培地で生育させた。野生株、atpA、atpC株の最終的な生育量はいずれもグルコース濃度に依存したが、いずれの場合においてもatpA、atpC株の生育量は野生株の70-80%程度に留まった。この結果、ATPase欠損株ではグルコースから得たエネルギーが菌体の生育に使われる効率が野生株に比して低いことが推測された。次に菌の生育測定のために開発されたカロリメーターであるAntares Rを用いて、それぞれの菌株の生育に伴う発熱量を測定した。0.2%のグルコースを含むLB培地でそれぞれの菌株を生育させた際の総発熱量を求め、これを細胞数で割って算出した細胞当たりの発熱量は、野生株で4.55E-4 (mJ/cell)、atpA株で1.03E-3 (mJ/cell)、atpC株で1.17E-3 (mJ/cell) であり、細胞当たりの発熱量はatpA株で野生株の2.26倍、atpC株で2.56倍であった。以上の結果は、ATPase欠損E. coli株では、呼吸鎖において得たエネルギーが菌体生育に使われる効率が野生株より低く、エネルギーの一部が熱として放出される可能性を示唆する。この結果は、発酵熱生成機構の可能性の一つとして、呼吸によって得られたエネルギーがATP生成とカップリングすることなく熱として放出されるとの仮説を支持した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、発酵熱の生成機構を明らかにするとともに、スターリングモーターなどを用いた発酵熱の電力への転換法の確立を目的としている。本年度の研究では、この二課題のうち発酵熱の生成機構について解析を行った。その結果、発酵熱は呼吸によって得られたエネルギーがATP生成と共役することなく熱として放出されるものであるとの仮説を、カロリメトリーというユニークな方法で検証した。この結果を受けて、動物の電子伝達系においてプロトン濃度勾配とATP生成を脱共役させて発熱をもたらすUCPのホモログ発現させることにより、E. coliに熱生成能を付加できないかどうかを検証中である。これまでにUCPホモログ遺伝子のクロ-ニングに成功しており、先の結果と合わせて本年度の研究については標記の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、本研究のもう一つの課題である発酵熱の電力への転換法の確立を目指す。これまで発酵熱生成のモデルとしてインジゴの生産工程で行われる藍葉発酵をとりあげ研究してきた。実際の生産現場では70℃程度までの温度上昇が報告されているが、実験室でのモデル系では42℃程度までの温度上昇しか得られていない。これには実験容器の保温性など様々な要因が考えられるが、最も大きな要因は実験系のスケールによるものだと予想される。発酵熱の電力への転換にはスターリングエンジンの利用を考えているが、その場合、系の温度と気温との差が高ければ発電効率はより高くなる。そこで平成28年度は小規模でも高温となることが知られている竹チップの発酵を導入する。竹チップの発酵過程での温度変化、菌叢変化を解析するとともに、十分な温度上昇が得られた場合には、実際にスターリングエンジンを用いた発電を試みる。 また本年度はこれまでの研究結果の報告を行う予定であり、学会発表のほか、論文2報の投稿を計画している。
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Causes of Carryover |
今年度は、本研究の二つ目のテーマである発酵熱の発電への応用について、実際に装置を用いた研究を行わず、これを平成28年度に行うことを計画している。その分の経費を次年度使用との予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
竹チップを用いて所期の発熱が得られた場合には、発酵熱によって稼働するスターリングエンジンのモデルを構築する。持ち越し額はその経費のために用いる。
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