2015 Fiscal Year Research-status Report
絵かき虫の多様化を可能にした葉内微環境と樹木-昆虫間の生理的相互作用の解明
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15K14759
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
池田 武文 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (50183158)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大島 一正 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (50466455)
米田 稔 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40182852)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | リーフマイナー / 葉の組織解剖観察 / クロロフィル蛍光 / 光合成活性 / 空気成分 |
Outline of Annual Research Achievements |
葉に潜り込み、葉肉細胞を摂食する昆虫をリーフマイ ナー(絵かき虫)と呼ぶ。一般に昆虫が葉を摂食すると、食べられた箇所の細胞は褐変・枯死するが、リーフマイナーが摂食した葉は緑が維持され、葉の細胞には悪影響がないように見えるが、詳細は不明である。そこで、リーフマイナーと植物の相 互関係を探るために、光学顕微鏡と走査電子顕微鏡による潜入葉の組織観察及び葉肉細胞の光合成活性評価のためにクロロフィル蛍光を測定した。材料はクルミホソガが潜入したカシグルミの葉(恒温室内)と、野外採取した5種の葉を用いた。光顕観察では、葉のマイン部の切片を作製し、サフラニン-ファストグリーンの二重染色を行った。その結果、カシグルミの葉肉細胞には顕著な活性の低下や壊死は生じていなかった。野外採取の種では、クズを除くすべてで細胞の壊死はみられなかった。いずれのマインにおいても摂食跡はマインのある組織のみであり、周囲の組織への損傷はほとんどなかった。また、 クロロフィル蛍光の測定結果から、すべての葉でマイン部分の光合成活性が低下していた。以上から、マイン形成によって葉の光合成活性は低下するが、細胞それ自体の活性は維持されているようであった。クズのマインは、マインに接する細胞壁がスベリン化していた。 植食性昆虫に食べらた葉は、食べらた部分が褐変化し、食べられた細胞の周辺へ影響が広がらないような反応をする。しかし、リーフマイナーによる摂食の影響は食べられて細胞がなくなっているだけで、摂食の影響が周囲に広がることはない。マイナーにとって自身の摂食により葉の細胞が防御反応を起こすと、自身の餌として葉の質が低下することになる。マイナーはそうならないような手立てを行っていると思われた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者の分担分(野外でのマイナー潜入葉の採取、摂食葉の組織解剖観察と光合成活性の評価、マイン内の空気成分分析、赤外線サーモグラフィーによる葉表面の温度測定等)並びに研究分担者2名の分担分(研究進捗状況の確認、野外でのマイナー潜入葉の採取、マイナーを飼育しマインを作らせる試料の作成、マイン内の空気成分分析)の双方とも、当初予定していた研究を進めることができた。さらに、海外の共同研究員であるブルツブルグ大学を訪れて、リーデラー教授とクチクラの透水性実験について研究打ち合わせを行うことで、本研究の進捗にとって貴重な情報を得ることができた。平成27年度の成果を、第127回日本森林学会大会(2016年3月、日本大学)において発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究対象とする植物種の数を増やし、当初計画した組織解剖観察や光合成活性に関する実験を追加する。 当初の計画には取り入れていなかった以下の実験を追加する。マイナー内の環境として、リーフマイナーの湿度は高いく保たれていることが重要である。しかし、リーフマイナーの摂食により葉脈の一部も食べらており、葉内に水を配分するための水分通道機能に支障が生じている可能性が考えられた。そこで、今年度は葉脈の水分通道性の変化も検討することとした。この実験には東京大学大学院理学研究科植物生態学研究室の種田助教の協力を得ることとする。
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Causes of Carryover |
遠方への出張を伴う野外での試料採取が十分に実施できなかったことによる旅費の残と、試料採取後の室内実験に用いる消耗品費の残として次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
出張を伴う野外での試料採取並びに室内実験用の消耗品費を追加する。当初の実験計画になかった新規の実験である葉脈の水分通道阻害に関する実験と再度のドイツ・ブルツブルグ大学での研究取りまとめ並びに今後の研究の方向性と新規研究補助金の獲得に向けての打ち合わせを行うための資金として使用し、本研究課題の充実に努める。
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Research Products
(1 results)