2015 Fiscal Year Research-status Report
遷移型アグロフォレストリーの経営動態分析:アマゾン日系農業の展開と将来予測
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15K14815
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
千年 篤 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10307233)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 祐彰 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60323755)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アグロフォレストリー / 経営合理性 / 遷移型複合果樹経営 / 動学的最適化モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
ブラジル国パラー州トメアスー市で展開されてきた遷移型アグロフォレストリー(SAFTA)の動態的特徴を体系化し、そのうえでSAFTA農家の意思決定プロセスを検証するために必要となる情報やデータを現地で収集した。本研究に先駆け昨年度に実施した調査と合わせた調査農家総数は22戸である。主な調査項目は、土地利用、雇用、機械・施設、生産状況、経営費、経営変遷、SAFTAやトメアスー総合農業協同組合(CAMTA)に対する意見等である。 収集データを規模別に整理・分析したところ、小規模層は収穫開始時期が早く土地収益性が高い作目(アセロラ、コショウ等)を基幹作目に据え、大規模層は初期投資が大きく収穫年数の長い作目(アサイー、アブラヤシ等)を経営の主体に据えている傾向にあることが見出された(暫定結果)。また、SAFTA経営開始時期によっても基幹作目が異なっていることが確認された。経営開始時期の技術水準や市場条件等が影響していることが示唆されたが、この点についてはさらなる分析が必要である。 SAFTA 経営農家は市況変化などの経営外部条件の変化に対応して経営を展開してきたという仮説のもと、実際に観察される導入作目選択ならびに経営形態変化の理論的根拠を導出することを目的として、SAFTA 経営の動学的最適化モデルの開発に取り組んだ。モデル化においては、短期作物や果樹の生産物をフロー収穫物、マホガニー等伐採で得られる生産物をストック収穫物として設定した。この方針に基づき、フロー収穫物(乳、卵、子等)とストック収穫物(肉、皮、毛等)を生産する畜産経営の動学的最適化モデル(Chitose and Weaver, 2006)の応用が可能であることを確認し、SAFTA 経営の動学的最適化モデルに向けた方向性を確定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究協力機関であるトメアスー総合農業協同組合の組合長選挙が行われたこともあり、日程調整が難しかったため、現地で実施した農家経営調査は当初予定していた規模を縮小せざるを得なかった。しかし、これまで収集したデータの分析から、暫定的ながらもSAFTA経営の類型化と動態的特徴を把握でき、これにより、2年目の調査に向けた実証研究の基盤を形成できた。 SAFTA 経営に関する理論分析は、主に関連文献レビューを中心に取り組んだ。SAFTA経営の動学的最適化モデルの開発に向けて、既存の畜産経営の動学的最適化モデルの改良により、観察される導入作物の選択合理性、多様なSAFTA形態の形成、さらには経済・環境諸政策のSAFTA形態に対する影響についての理論的根拠を得ることが可能であるという確信を得た。これにより、動学モデル化に向けた方向性を確定できた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度に十分とはいえなかった実証分析を精力的に行う予定である。具体的には、現地調査において本度の分析から導出した暫定結果(仮説)のさらなる詳細な分析(検証)に必要となるデータの収集に力点を置く。収集データをもとに、SAFTA生産者間の共通点及び相違点を整理・区分することで経営類型化を行い、そのうえで市況や政策等の経営外部条件の影響を加味し、SAFTA経営の背後にある生産者の意思決定プロセスを考察する。実際に観察されるSAFTA経営の形態(規模、導入作目等)が非常に多様である点に配慮しつつ、SAFTA経営類型の体系化と生産者の行動様式の解明に取り組む。 理論分析については、前年度、確定したモデル化の方向性に沿って、SAFTA 経営の動学的最適化モデルを構築する。そのうえで、比較静学分析を通じて、生産物価格、労働力等の生産要素価格、利子率等の価格変数の変化に対して、遷移型アグロフォレストリーであるSAFTAの1サイクルの期間はどのように変化するのか、選択される導入作目はどのような影響を受けるのか、という点を考察する。最終的には、経営外部条件の変化に伴う農家行動の変化の方向性、さらにSAFTA経営形態の変化の方向性を理論的に明らかにし、農産物国際市況や政府の森林保全政策の影響に関する議論において理論的根拠を提供することを目指す。
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Causes of Carryover |
研究協力機関であるトメアスー総合農業協同組合の組合長選挙が行われたこともあり、日程調整が難しかったため、現地での調査可能期間が限定された。これにより、現地で実施した農家経営調査は当初予定していた規模を縮小せざるを得なかった。ブラジルに3名が出張する計画であったが、1名の都合がつかず2名の出張になった。加えて、現地調査期間も当初計画より短縮した。それに伴い、収集データの整理・分析の作業量も減少したため、研究協力者の雇用時間も計画より短縮となった。このため、旅費、人件費・謝金の決算額が予算額より減額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、現地調査を精力的に行うため、本年度の余剰分の一部を外国旅費にあてる。また、次年度のデータの整理・分析に必要となる作業量が多くなることを鑑み、研究協力者の雇用時間の延長によって対応する。このため、本年度余剰分の一部を人件費・謝金に振り分ける。
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