2015 Fiscal Year Research-status Report
腸上皮細胞と筋線維芽細胞の2層培養系を用いた新規薬物透過吸収試験モデルの開発
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15K14855
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
佐藤 晃一 山口大学, 共同獣医学部, 教授 (90205914)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 消化管上皮細胞 / 筋線維芽細胞 / 3次元培養 / 薬物透過吸収 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,『消化管の上皮細胞層と筋線維芽細胞層からなる腸上皮2層モデルの作出による新たな薬物透過吸収試験系の確立』を目的としている。 経口摂取された医薬品や機能性食品の効果や安全性は消化管からの吸収に依存するため,培養細胞を用いた消化管透過吸収試験の結果が評価において重要な材料となっている。しかし,現在の吸収透過試験系は単一種の上皮細胞による単層培養系が用いられており,生体の消化管上皮層が多様な上皮細胞から構成されていることや,筋線維芽細胞が上皮細胞直下に足場として配列し上皮細胞の機能を制御していることが考慮されていない。本プロジェクトでは,生体環境に近い物質透過吸収試験系を確立することで,薬や機能性食品の有効性や安全性がより反映されたあらたな評価方法を提供することを最終目的として研究を行っている。平成27年度は上皮幹細胞(IESC)を用いた上皮細胞単層モデルの作成をめざして,IESCの効率的分化誘導法の確立とIESC由来上皮細胞単層モデルの作成のために,腸筋線維芽細胞(IMF)と腸上皮細胞の混合型3次元組織構造体(オルガノイド)作成の検討を行った。その結果,消化管上皮オルガノイドにIMFを加え,特殊調整した培地,血清,各種因子等により刺激を行い,効率的に分化・増殖させる培養条件を見つけ出し,マウスのみならずヒト消化管からも各種細胞が混在する3次元培養モデルを確立することができた。現在は,これらの知見を元に,IESCの効率的分化誘導法の確立と,IESC由来上皮細胞単層モデルの作成を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では,腸上皮細胞のみを利用した消化管上皮オルガノイドの作成条件を,そのままIESCの分化誘導ならびにIESC由来上皮細胞単層モデルへ利用する予定であった。しかし,予備的実験において,本条件を上皮細胞単層モデルとして適用するよりも,オルガノイドの時点で,最終目的のIESC由来上皮細胞とIMFを混在させることが,その後の2層培養モデルの培養条件として,適していることが明らかとなってきた。そこで,1) 適正培地組成(DEME,DMEM/F12など),2) 血清成分と濃度(FBS,マウス血清など),3) 各種発生シグナルの刺激薬・阻害薬の必要性(WntシグナルやNotchシグナル活性化,BMPシグナル阻害など)について,2種細胞からなるオルガノイドの作成条件を検討し,確立することができた。 また,培養にはNogginやR-spondin1等の非常に高額な因子を必要とすることから,当該研究費だけでは,実験の進展が困難であることが明らかとなった。そこで,これらの因子を自己産生する細胞を作成し,実験が滞りなく進むようになった。現在は,当初目的のIESCの分化誘導ならびにIESC由来上皮細胞単層モデルの作成を行っており,本研究計画はおおむね順調に進捗していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は当初計画通り,IESCの効率的分化誘導法の確立とIESC由来上皮細胞単層モデルの作成を初めに行う。その後,IESC由来上皮細胞とIMFからなる2層透過吸収試験系を確立し,最終的には,IESC由来上皮細胞-IMF2層モデルによる透過吸収試験系を完成する。具体的には,現在進めている培養条件をIESCとIMF2層培養モデルへ適用し,その後,ルシファーイエロー透過性試験やグルコース吸収試験により物質透過性を検討する。さらに,経上皮電気抵抗試験により細胞間密着結合について検討し,免疫蛍光染色により細胞間接着(タイトジャンクションなど)を確認する。また,IESC由来上皮細胞-IMF2層モデルの形態学的・機能的な性質を検討するために,電子顕微鏡により細胞および細胞間の微細構造の解析と中和抗体を用いて細胞間接着におけるβ1やβ4 integrin等の関与を検討する。また,どうしてもIESCの分化誘導が成功しない場合を想定して,多様性を持った上皮細胞集団のオルガノイド(3次元組織構造体)の利用を並行して検討する予定である。我々はすでにマウス小腸上皮細胞を用いて,オルガノイドの作成に成功している。さらに,IMFとマウス結腸株化上皮細胞による2層培養モデルを作成し,少なくとも上皮細胞と筋線維芽細胞を用いた物質透過吸収試験系の作成は完遂する。
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