2016 Fiscal Year Research-status Report
ピアノロールの計量的解析によるワルツ作品の演奏分析
Project/Area Number |
15K16642
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Research Institution | Fukuoka Prefectural University |
Principal Investigator |
鷲野 彰子 福岡県立大学, 人間社会学部, 准教授 (20625305)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 自動演奏ピアノ / ピアノロール / 19世紀の演奏法 / ルバート / 演奏分析 / ワルツ / ショパン / ズレ |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度(平成28年度)、客員研究員としてスタンフォード大学に所属し、本課題研究の内容を中心に研究活動を行ったが、その間、充実した資料を活用でき、また学内外のこの方面の研究者らと相談しながら活動できたことで、本研究を飛躍的に進展させることができた。 特に、分析資料として用いる際のピアノロール資料と他の音源との関係性を明確にし、これら双方を関連させながら扱えるようになったことは、今後の研究に非常に有益なものとなると考えている。こうした資料間の関係性を明らかにするため、ピアノロールとそれ以外の音源を含む、1945年以前に録音されたショパン《ワルツOp.42》の演奏をできる限り多く入手し(ピアノロール9本、他の音源約50種類が入手できた)、それらを比較分析した。 この間、アメリカ国内及びヨーロッパ圏、オーストラリアの研究者らと、本課題研究について相談ができたことで、自動演奏ピアノ及び演奏分析、そして20世紀初期の録音についての最新の研究状況が把握できたほか、当初予定していたよりも大幅に扱える資料が増加した。また、演奏分析のための最適な分析ツールについても、多くの研究者らと相談を重ねる中で得られた現時点での最新情報を元に思案することができ、本課題研究に必要な演奏分析手法を確立することができた。 これらの研究成果については、博士論文としてまとめ、今年度12月に提出し、受理された(「ピアノロールの計量的解析によるショパン《ワルツOp.42》の演奏分析」, 大阪大学)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、アメリカのスタンフォード大学を拠点に活動したが、同地において、ピアノロールのデータを計測する際の新しい方法を習得した。それまで、ピアノロールをスキャンしたデータを九州工業大学に依頼して作っていただいたソフトウェアを用いて計測していたが、この新しい方法では、ピアノロールのデータをMIDI化したものを用い、それをSonic Visualiserを用いて計測する、という方法を用いることとした。その際、MIDI化されたデータについては、MIDIデータの音の入りのタイミングのみを自動検出するプログラムを用い、その後、必要なデータをSonic Visualiserで抽出する方法を用いた。また、ピアノロール以外のオーディオ音源についても、Sonic VisualiserにSpectral Reflux toolを組み込んだプログラムを用いることで、聴取によるデータの検出をかなりの精度で行うことができるようになった。これらのMIDIファイル及びオーディオ音源の関係性についても、相互の関係性を詳細に比較分析することで、双方の資料を関連させながら演奏分析資料として用いることができるようになった。 当該年度は、分析に最適なデータの選択や分析方法を確立させることに重きをおいて進めてきたが、これらについては方法が固まった、といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでピアノロールを用いた演奏分析をどう進めるか、を模索してきたが、資料の入手をスムーズに行うことができるようになり、また資料からのデータの抽出や分析方法も固まったことから、今後、本来の主目的である、演奏傾向の分析に重点を移して研究を進めたい。その際、平成28年度はショパン《ワルツOp.42》の演奏に特化して分析を行ったが、平成29年度はショパンの他のワルツ作品、そして19世紀後半にウィーンで活躍したアルフレート・グリュンフェルト(1852-1921)によるシュトラウスのワルツ演奏についても分析を試みたいと考えている。
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Causes of Carryover |
当課題申請当初は予定していなかったスタンフォード大学における1年間の研究の機会を得ることで、研究の手順に変更が生じた。また、そこで得た研究者情報を元に、アメリカ国内及びヨーロッパの研究者らに相談する機会を多く得たことから、旅費の割合が申請時の予定よりも増加している。 また次年度に、申請時当初は予定していなかった国際学会への参加が決まったため、そのための費用を確保するため、助成額の一部を次年度に回すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度(平成29年)4月にコーネル大学で行われる学会で発表を行う他、国内における学会においてもこれまで得られた成果について発表を行う予定である。
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