2016 Fiscal Year Research-status Report
近世中後期における仏教教団の地域的編成と対幕藩交渉
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15K16830
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
上野 大輔 慶應義塾大学, 文学部(三田), 助教 (90632117)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 日本史 / 近世史 / 仏教史 / 触頭 / 組合 / 講 / 幕藩領主 / 政教関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
私は平成27年度に引き続き、日本の近世中後期における仏教教団の地域的編成とそれに基づく幕藩領主との交渉について検討し、政教関係論の構築を進めた。 まず真宗教団に注目し、本山の西本願寺・東本願寺や全国各地の触頭寺院などに関する史料をもとに、地域的に編成された教団の運営実態を明らかにした。また、江戸幕府や諸藩、他宗の教団の動向を踏まえ、教団・領主間交渉を立体的・多角的に把握するよう努めた。全国の自治体史・寺史などからの関連史料の集積も進めた。このような取り組みの中で、国文学研究資料館・東京都公文書館・山口県文書館・富山県公文書館・京都市歴史資料館・姫路文学館・龍谷大学図書館・大谷大学図書館・成菩提院などに出張すると共に、関連図書を購入した。 以上を通じて、研究課題と関わる新たな知見が得られた。平成28年度は特に、教団の地域的編成と対幕藩交渉を踏まえ、近世の身分制に根差した政治的範疇と宗教的範疇の棲み分けについて理解を深めることができた。こうした知見の一部は、仏教史学会編『仏教史研究ハンドブック』(法蔵館、2017年)に寄稿した「幕府の宗教政策」や、『山口県史』通史編近世(山口県、2017年3月刊行予定だったが延期となった)に分担執筆した「宗教文化の諸相」にも活かされた。また、本研究に活用できる史料集である本興寺編『本興寺文書』第4巻(清文堂出版、2016年)を共同監修すると共に、朴澤直秀の著書『近世仏教の制度と情報』(吉川弘文館、2015年)の書評を『歴史評論』第802号(2017年2月)に執筆した。加えて、研究課題と関わる学会報告などを行った。 なお、松金直美(真宗大谷派教学研究所助手)と林晃弘(東京大学史料編纂所助教)に研究協力者として関連分野の検討を進めて頂いた。松金は東本願寺・仏光寺の教学統制を、林は近世前期の寺社政策をそれぞれ検討し、課題と関わる研究会にも出張した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概ね当初の計画通りに文献の調査・分析を進め、それを通じて得られた知見をもとに学会報告・論文作成を行った。 本山・触頭・寺院組合や長州藩に関する未刊行史料の閲覧・撮影を順調に進めることができた。これらの史料の読み込みと、関連文献を踏まえた考察に力点を置いているが、現物をまだ確認できていない史料もあり、閲覧・撮影などを継続する必要がある。江戸幕府に関しては、既刊の図書・マイクロフィルムを中心に検討を重ねている。 平成28年度には、山口県文書館所蔵史料や本願寺史料研究所保管「本願寺文書」をもとに、清光寺(長門国萩の触頭寺院)の事件をめぐる西本願寺・長州藩間の交渉に関する論文をまとめる計画を立て、完成に近づけることができたが、学会誌への投稿には至らなかった。この論文については平成29年度の課題としたい。一方で、龍谷大学図書館・大谷大学図書館所蔵の三業惑乱関係文献の調査を進め、三業惑乱の裁定過程に関する論文の構想を得た。本論文により、西本願寺教団・幕府間交渉をめぐる新たな事実関係・論点の提起が可能となるため、引き続き取り組みたい。 研究課題と関わる各種の依頼にも積極的に応じた。平成28年度には、本興寺・幕末維新期護法思想研究会・都市史学会・日本経済思想史学会の依頼に応じ、監修・報告・寄稿を行った。これらを通じて研究課題を、より広い視野の中に位置づけることができるようになった。 なお、研究協力者との意見交換に加え、歴史学研究会日本近世史部会・近世の宗教と社会研究会での討論や、京都大学人文科学研究所での共同研究からも、研究課題と関わる多くの刺激を得ている。後者の共同研究では、近世仏教史の学説史的な検討を進めることで、研究課題の学説史上の位置づけも一層明確となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度も、概ね当初の計画に沿って研究を推進する。史料調査を踏まえ、具体的な事例に即して検討を深化させ、その成果を学会報告や論文発表につなげたい。 まず、清光寺の事件をめぐる西本願寺・長州藩間の交渉に関する論文を完成させ、学会誌へ投稿したい。この論文では、交渉に際しての組織・理念や、長州藩内における真宗寺院の地域的編成、幕末期における西本願寺と長州藩との政治的結合関係などが明らかとなるだろう。 次に、築地御坊を介した西本願寺と江戸幕府との交渉について、三業惑乱の裁定過程を含めて検討し、最終的には論文として発表することを目指す。ここでは、老中の指揮・監督下にある寺社奉行所の政務指針についても示したい。 平成29年度は最終年度に当たるため、研究成果を広く発信できるような学会報告の機会を確保するつもりである。現時点では、近世史サマーセミナーや仏教史学会大会での報告を計画している。 以上の研究の遂行に当たり、松金直美と林晃弘に引き続き協力を依頼する。松金は東本願寺の教学統制を、林は江戸幕府の寺社政策を、それぞれ主な検討対象とし、本研究に協力する。相互の意見交換や企画などを通じて、研究がより活性化することを期待している。
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Causes of Carryover |
研究会や史料調査のために旅費を積極的に支出したこともあって、デジタルカメラの新規購入費用を十分に確保できず、購入を平成29年度に見送ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
まず、研究会や史料調査のための旅費として、研究協力者と共に使用する。また、図書・古文書・デジタルカメラを購入する。
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Research Products
(13 results)