2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K16853
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
小林 晃 熊本大学, 文学部, 准教授 (80609727)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 宋・金関係 / 南宋 / 金朝(女真) / 元朝(モンゴル) / 南北対立 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である平成27年度においては、まずは当初の計画に基づいて研究を開始した。計画においては、宋・元時代の江南支配のあり方の変容を追うというものであったが、史料を読解していくうちにその全容解明のためには、南北対立が激しさを増した1207年以降の南宋・金の外交関係を推移をまず明らかにする必要性があることに気づかされた。この時代の南宋・金の関係史については、従来は粗雑な編年体史料に基づいた研究しかなされておらず、史実からは遠くかけ離れた理解がなされているように感じられたからである。 以上の問題関心のもとで研究を進め、その結果として国内学会において合計4回の口頭による研究発表を行った。2015年の5月31日に第64回東北中国学会において行った「南宋中期における史彌遠政権の変質過程」が1回目であり、同年8月29日の「第41回早大史研究会」で行った「南宋寧宗朝における史彌遠政権の変質過程」が2回目、同年11月28日に富山大学で開催されたシンポジウム「分裂する中国―二つの南北朝―」の席上で発表した「南宋寧宋朝後期における史彌遠政権の変質過程―対外危機下の強権政治―」が3回目である。これらの研究発表では、1207年以降、モンゴルの台頭に起因する南宋・金の対立の激化により、南宋政権内に強権によって国内を主導しようとする傾向が強まったことを指摘した。江南支配の変容の始まりとして注目に値する現象である。 さらに2016年3月23日には、公益財団法人東洋文庫開催の談話会において、「南宋四明史氏の斜陽―南宋後期政治史の一側面―」と題する研究発表を行った。この研究は、宋―元―明と続いた浙江省寧波市の史氏一族の消長を論じたもので、明朝建国に携わった浙東学派へと続く人際関係の解明のための第一歩となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
計画の遅れの原因は、第一には当初の予定では研究の出発点を南宋末期に置く予定であったが、開始後に南宋中期に出発点を置くことに変更したことによる。これによって当初予定していた元代刊行の史料『水利集』の分析への取りかかりが遅れることになった。ただしこれは結果的には研究全体に厚みを加えるものであり、必ずしもマイナス的な要素だけとはいえないといえる。南宋中期の宋金関係史の研究が一段落した同年7月以降に『水利集』の分析に力を注ぐことができれば、大きな予定の変更にはならなかったと考えられるのである。 となると進捗の遅れの最大の原因は何であったかが問題となるが、それは2015年10月に熊本大学への着任が同年7月の時点で決まったことに求められよう。これにより、東京から熊本へと急ぎ転居する必要が生じ、7月から9月にかけて新居の決定と引越しという一連の作業に忙殺されることになった。しかも就職前の所属先であった(公財)東洋文庫でも研究部の人事改変が9月に行われ、その混乱によって就職先である熊本大学への科研費の移管が11月後半まで行われないというトラブルにも見舞われた。熊本大学での新しい業務への対応もあり、研究活動は実質的には12月まで再開することができなかったのである。これによって『水利集』の読解計画は大きく狂い、2016年3月から本格的に着手することを余儀なくされたのであった。さらに同年4月には熊本地震に見舞われるなど、研究の進捗を阻害する新たな要因が生じていることも追記しておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方針としては、本来は初年度に着手するはずであった『水利集』の読解に全力を傾注することに尽きると思われる。平成27年度においても全くの未着手であったわけではなく、全10巻のうち2巻分を読解して電子データを作成したほか、池田静夫や濱島敦俊・北田英人といった江南水利史研究の先達の業績を摂取するなどの予備的な作業を進めてはいたが、いまだ本格的な読解には至っていないからである。そのため平成28年度においては、『水利集』の全巻を通読することと、近年中国から刊行されつつある『水利集』を活用した研究内容を消化することが急務になるといえる。 また平成27年度の研究成果を、早期に活字化して公表することも必要である。とくに2016年9月には上海の復旦大学で開催される国際学会に参加する予定であり、その席上では平成27年度の研究業績を海外に問おうと考えている。これによって、科学研究費補助金の成果を国外に公表するという責務を果たすことになるはずである。 もう一つの推進方策として考えているのは、他分野・他時代を研究している研究者との交流をより活発化させるということである。私はこれまで宋代の政治史を中心に研究を行ってきたが、『水利集』の読解には元代史や明代史、さらには宋~明代にかけての社会経済史の知識が不可欠である。研究会などに積極的に参加し、こうした新たな知識の積極的な摂取に努めていきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、2015年7月に熊本大学への就職が決まり、10月にそれまでの所属先であった(公財)東洋文庫から転出したことにある。これによって7月から10月までの間、引っ越し作業や新任地での新業務への対応に忙殺されてしまい、実質的に研究を進めることができなくなり、科研費の使用も同様に滞ることになってしまった。しかも東洋文庫の研究部で人事の異動があり、科研費を統括されていた方も他部署に異動していしまったため、その混乱によって東洋文庫から熊本大学への科研費の移管が滞ってしまったことも注意される。熊本大学で実際に科研費を使えるようになったのは11月も後半になってからである。これもまた科研費の使用を滞らせる大きな原因になった。これが次年度使用額が生じた理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額の使用計画としては、平成28年度は上海の復旦大学開催の国際学会において研究発表を予定しているため、和文原稿の中国語への翻訳のために7~8万円(人件費・謝金)ほどが必要になることが見込まれる。さらに東京から熊本に転居した結果、熊本から日本各地の研究会や史料調査に出かけるためには、昨年度以上の旅費が必要になると思われる。次年度使用額については、これらの必要経費によってほぼ消化されるものと考えられる。
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Research Products
(4 results)