2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K16853
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
小林 晃 熊本大学, 文学部, 准教授 (80609727)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 賈似道 / 南宋 / 元朝 / 公田(官田) |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度においては、前年度に引き続き、宋代末期の江南支配のあり方について、政治史方面からの検討を行うとともに、元代の江南支配についても初歩的な検討を始めることになった。まず前者の宋代末期の江南支配については、南宋最末期の独裁的宰相であった賈似道の政権成立に至るプロセスの解明に力を尽くした。というのも、賈似道が対モンゴル戦争を耐え抜くために浙西地方に設置した「公田」が、元朝・明朝にも「官田」と名前を変えて継承され、それが元朝・明朝の国家財政の重要な基盤となったからである。官田こそは元朝・明朝の江南支配を理解するための関鍵となるが、そのもととなった公田を設置した賈似道政権については、「亡国の宰相」としてのレッテルが貼られ、その政権の歴史的性格については正確な理解がなされてこなかったのであった。 以上の理由から、本年度は賈似道政権成立に至るまでの南宋中央の政治過程を再検討し、従来は南宋最末期に突如として出現したかに理解されてきた賈似道政権について、それが実は南宋後期の史彌遠政権・史嵩之政権の人脈のなかから、その人脈を濃厚に継承する形で出現していたことを明らかにした。これによって南宋最末期の賈似道政権を孤立的に見なすことなく、南宋後期の政治状況から一貫した視点で理解できるようになり、公田(官田)の設置をより多角的に検討するための条件を整えることに成功した。本研究成果は平成28年9月に上海の復旦大学で行われた国際学会で発表されたほか、大阪市立大学で行われた宋代史談話会でも発表され、最終的に三木聰編『宋-清代の政治と社会』(汲古書院、2017年)に論文として掲載された。 また上記の成化と並行して、元朝の江南支配について検討を行うため、元代の文献を渉猟し、そこに掲載された数量データの蓄積も進めていることも最後に付け加えておきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度の4月には熊本地震が発生し、震災後の復旧や私事・校務に大きく時間を割かれたため、本格的に研究を行えるようになったのは7月に入ってからであった。この出遅れは非常に大きく、本年度の目標であった『水利集』の元朝江南に関連する部分の電子データ化は何とか間に合ったものの、『全元文』や『元典章』に掲載されている元朝江南デルタに関する数量データの抽出に関しては8割ほどの完成度となっている。そのため、本来であればすでに開始していなければならない元朝江南デルタ支配のあり方についての検討は、いまだに初歩的な段階にとどまっているのが現状である。 ただし南宋の江南支配に関する研究は、賈似道政権に至る政治過程を明らかにすることができたため、平成27年度に行った史彌遠政権との連続性がより明瞭となり、大きな前進を見せることになった。この進展によって、南宋の江南支配に関しては当初の見通しよりも大きな見取り図が描けることになる可能性もある。元朝の江南支配を見据えた上で、さらなる仮説を積み重ねていく必要があるであろう。 また明朝の江南支配に関する研究は、『皇明条法事類纂』という史料との出会いがあったことで、当初の予定であった『御製太誥』の読解だけでは、その解明のためには不十分であるということが改めて分かってきた。この点についても、今後修正しながら研究を進めていく必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度における最大の目標は、元代の江南支配を考えるための一級史料である『水利集』を徹底的に読解したうえで、元朝の全体的な歴史のなかで江南支配がいかなる意義を有していたのかを解明し、その結果を形にしたうえで研究成果を世に問うことである。すでに宋代史研究会の研究報告集第11集から寄稿の依頼を受けているため、平成29年度は上記の内容の研究論文の完成に力を尽くしたいと考えている。またそのためには、「進捗状況」の部分で述べたように、現状では未完成となっている元朝の江南支配関連の数量データの整理を急ピッチで進め、研究論文執筆のための必要条件を満たす必要がある。この作業は5月中に完成させることを目指したい。 また南宋の江南支配に関しては、史彌遠政権のあり方の展開についての研究論文を執筆し、研究成果として世に問うことを目標としたい。これについても北海道大学東洋史研究室が発行している『史朋』からの寄稿依頼を受けているため、その論文執筆を通じて、上記の目標を達成することを考えている。論文執筆のために必要なデータは概ね揃えることができているが、理宗朝時代の官僚の文集になおも記述が残されている可能性があるため、引き続き史料の読解を行いたい。 明朝の江南支配に関しては、昨年度に引き続いて『皇明条法事類纂』の読解に取り組みつつ、その前代の史料に当たる『御製太誥』に描かれた江南社会との連続性を追究することを目指したい。これにより、元朝の江南支配への理解がより深まるはずである。
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Causes of Carryover |
平成28年度に次年度使用額が生じた理由は、当初は他大学から洋装本の漢籍を相互貸借で取り寄せるための郵送代などとして使う予定であったが、取り寄せたとしても漢籍のデータをまとめる段取りが申請者のほうで3月までにつかず、取り寄せを4月以降に繰り越したことにある。近く取り寄せて消化する予定であり、現在のところ大きな問題は生じていない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度には、国際学会に一度参加する予定があるため、それにともなって昨年度とほぼ同額の翻訳のための謝金が生じる可能性が高く、160,000円を計上したい。当初の予定よりも大幅に謝金が増えてしまうことになるが、国際学会の開催場所が日本であるとのことであるため、旅費はその分節減することができるものと思われる。すなわち平成29年度の旅費としては、180,000円と計上する。また物品費については、昨年までに必要と思われる書籍はほぼ揃えることができたため、230,000円と想定する。さらに熊本大学は漢籍の数が少なく、他大学からの洋装本漢籍の相互貸借を頻繁に行う必要が出てくると考えられるから、その他の費目として32,217円を使うことを予定している。
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Research Products
(3 results)