2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K16898
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
阿部 哲 長崎大学, 多文化社会学部, 戦略職員 (90732660)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 環境問題 / イラン / イスラーム / ナショナリズム / (環境)科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、イラン・テヘラン市で、同国における近年の環境事情の現状把握と人々の環境意識調査のため、現地でインタビュー、参与観察および資料収集を行った。調査では、市民の環境意識の向上とともにイラン独自の社会文化的文脈で浸透し始めた西洋近代的科学観とナショナリスティックな環境言説の変化、作用に留意した。 現地では、イランの環境問題に精通する新聞記者、環境庁職員(環境エキスパート)、環境NGO、テヘラン市民を対象にインタビューを実施し、イランにおける昨今の環境問題の特徴、政府の環境対策、市民およびNGOによる環境問題への取り組みに関する情報を入手することができた。また、現地で開催されていた環境公式イベントである環境展や緑化推進アピールのための「植樹の日」に行われた市民イベントにも参加した。これらを通し、イラン政府がいかなる環境問題へ傾注し、その解決へ向け、どのようにアプローチしているかが明らかになってきた。加えて、上記の各イベントにおいて、複数の参加者から、市民の環境意識やかれら自身の環境活動経験などについて話す機会が得られた。 また、テヘラン大学周辺の書店群を中心に、店頭に並べられていた環境問題に関する文献を閲覧、収集した。 これらの文献に加えて、メディア媒体(新聞、雑誌、ラジオ、ビルボードなど)による環境問題の取り上げ方、その内容および頻度についてもチェックできた。 以上のような現地調査から、イラン社会文化的文脈における近年の環境事情の現状把握、とりわけ、政府の環境問題への関わり方とテヘラン市民の環境問題意識に関する実状が明らかになってきた。前回調査時(2011年)より、環境問題に対する意識は、政府、市民両レベルにおいて向上が見られ、特にイスラーム的観点による環境言説が政府により推奨されていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、現地調査を平成27年度の秋頃に実施予定であったが、申請手続きや日程調整などの事情により、同年度末にフィールド調査を行った。そのため、現地調査で得られたデータの分析を継続中であるが、来年度の現地調査の実施へは支障はない。 フィールド調査では、必要としていた情報を概ね収集できた。注目に値したことは、 予想以上にイラン政府によるイスラーム観点からの環境問題解決へのアプローチが見られたことである。今回の調査で得られたデータを、これまでに蓄積されたデータと統合しながら、包括的に現在分析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、昨年度同様にイランで現地調査を実施し、環境関連のデータを収集し研究結果をまとめあげる。今年度の調査結果を受け、市民の環境意識向上とともに普及し始めた科学観、ナショナリスティックな情操に留意しながら、政府によるイスラーム観を通した環境政策がいかにイラン市民の生活および環境意識の形成に影響を及ぼしているかについて広範な視点から検証していく。調査許可が取得できれば、テヘランでのフィールド調査に加えて、シーア派聖地の一都市であるゴムのマドラサで環境教育に関する聞き取り調査と参与観察を行う。これらの調査と同時並行で、イラン国立図書館、書店、メディア媒体などを利用し、イランで現出している環境言説についての文献調査も継続する。 現地調査の後、それまでに得られたデータを総括し、環境問題によって変容するイラン社会を、イランで独自に形成されゆく環境意識から読み解いていく。この成果を学会発表と論文投稿を通して幅広い読者へと発信する。
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Research Products
(4 results)