2015 Fiscal Year Research-status Report
漁業資源の保存管理とWTO:漁業資源管理レジームと国際通商レジームの競合と調和
Project/Area Number |
15K16930
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
石川 義道 静岡県立大学, 国際関係学部, 講師 (90749061)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 漁業資源の保存管理 / WTO / IUU漁業 / ウナギ資源 / 貿易関連措置 / 科学的根拠 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は研究計画に従って,漁業資源管理レジームの構造・性質・内容を把握するべく,とりわけウナギ資源の国際的な保存・管理の問題に着目し,分析・検討を行った。
【研究成果の内容】養殖ウナギの原料となる「稚魚(二ホンウナギ)」-マリアナ海溝周辺で誕生し,海流に乗って東アジア諸国の沿岸域まで回遊する-の漁獲量が近年激減していることから,日本・中国・韓国・台湾は,ウナギ資源の国際的な保存・管理を目指して交渉を行っているところである。この点,ウナギ資源枯渇の原因の1つが稚魚の「違法・無報告・無規制(illegal, unreported and unregulated: IUU)漁業」に伴う過剰漁獲にあるとされる。そこで本年度は,EUが実施するIUU漁業国に対する輸入制限措置がIUU漁業対策として一定の成果を上げていることから(例:対フィリピン),同様の貿易制限措置をウナギの保存・管理の文脈で導入することの是非,及びかかる貿易制限措置とWTO協定との整合性について分析・検討を行った。
【研究成果の意義・重要性】漁業資源の保全・管理を目的とした貿易措置とWTO協定の整合性を巡って特に問題となるのは,関連する情報・データ(例:漁業資源量,総漁獲可能量)が科学的にどこまで明らかであることが求められるかという点である。これが問題とされた事例として「ニシン資源を巡るEUとフェロー諸島(デンマーク領)間のWTO紛争」(2014年)があるものの,WTOによる最終的判断が示される前に両者は合意に達したことから,この点巡って先例は存在しない。従って,この問題について分析・検討することに本研究成果の意義及び重要性がある。なお,この点については2015年11月にバンコクで行われたアジア国際法学会の研究大会で個別報告を行っており(概要は同学会HPより入手可能),成果物を論文の形で公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の概要】で述べたように,2015年度は研究計画に従って,漁業資源管理レジームの構造・性質・内容を把握するべく,1つの事例としてウナギ資源の国際的な保存・管理の問題に着目し,とりわけIUU漁業対策を目的とした貿易制限措置とWTO協定との整合性について分析・検討を行った。
もちろん,3年計画である本研究課題は「漁業資源の保全管理のために実施される各種の措置を包括的に検討対象」とするものであり(研究計画調書2頁の「3. 当該分野における本研究の学術的な特色」の(1)を参照),IUU漁業対策を目的とした貿易関連措置(2015年度に検討を行った輸入制限措置に加えて,漁獲証明書制度やラベリング制度を含む)とWTO協定との整合性の問題に検討が限定されるものではない。他方で,2015年度に行った研究は,もともと平成28年度以降の研究として計画されていた「漁業資源の保存管理のための措置とWTO協定の整合性の分析」(研究計画調書の3頁を参照)の一部に踏み込むものでもある。
以上を考慮して,本研究課題の進捗状況として「おおむね順調に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは,2015年11月の国際学会(於:バンコク)で行った個別報告に基づいて,研究成果を論文の形で公表することが目標である。同時に,平成28年度以降の研究計画に従って引き続き研究を進めていく所存である。
また今後の「研究の推進方策」は次のとおりである。研究計画調書の4頁(研究計画・方法の「4. 本研究を遂行する上で具体的な工夫」)では,研究計画のペースを確保し,効率的に研究を進めていくための工夫として「積極的に研究報告の機会を利用していく…国際学会の場での研究報告も念頭に置いている」と述べられている。2015年度は,11月のバンコクでの国際学会での個別報告がまさに「研究のペースメーカー」としての役割を果たしてきたと言える。これと同様に,平成28年度以降も積極的に研究報告の機会(国内又は外国)を利用することで,研究計画のペースを確保していくというのが研究の推進方策である。
なお,現時点で研究計画の変更は予定しておらず,また研究を遂行する上での特段の課題が新たに生じた,という事もない。
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