2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K17204
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
櫻井 悟史 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (90706673)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 死刑 / 刑罰 / 歴史社会学 / 犯罪社会学 / 軍法会議 / 戦争犯罪裁判 / 占領期 / 戦後史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は、第一に1948年の死刑制度合憲判決をめぐる社会状況について、絞首刑合憲判決、死刑廃止法案の上程といった論点をふまえつつ、同時代史学会第17回関西研究会にて報告した。同研究の一部は、当初査読つき論文として投稿する予定であったが、資料の不足から投稿を見送った。 第二に、2014年に公開された新資料である旧厚生省援護局調査課事務官だった坂田良右衛門の『法務関係拙論集』ならびに『秘録 戦争犯罪裁判(上・下)』を分析し、日本陸軍軍法会議とフランスBC級戦争犯罪裁判がいかに相互に参照されていたかを明らかにした論考を、立命館大学生存学研究センター発行の『生存をめぐる規範と秩序』に投稿した。これによって、別々に研究されていた戦争犯罪裁判と軍法会議、ひいては一般刑事裁判を同時に扱うという刑罰史研究の新たな視座への展望を示した。 第三に、2016年2月21日から2016年3月21日までの間、アメリカ合衆国メリーランド州メリーランド大学にあるプランゲ文庫や、The National Archives at College Park, Maryland、そしてワシントンD.C.にて、資料調査を研究計画通りに行なった。同調査は投稿予定だった査読つき論文の不足していた箇所を補うだけでなく、スガモ・プリズン研究や占領期日本における刑罰史研究への道をも開く調査となった。具体的な成果をあげれば、スガモ・プリズンにてA級戦犯等の死刑執行を指揮した、アメリカ陸軍の第八軍がいかなる死刑執行マニュアルを用いていたのかという資料などを入手した。このアメリカでの調査で入手した膨大な資料の分析が、2016年度の中心的な課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた査読つき論文の投稿は資料の不足から見送ったが、1948年3月の死刑制度合憲判決をめぐる社会状況について、1956年に提出された死刑廃止法案までをふまえた研究を行ない、学会報告を行なえたことは、2016年度へとつながる大きな成果となった。 また、2016年度に予定していた軍法会議、戦争犯罪裁判研究の一部を前倒しで行なうことができた。具体的には、旧厚生省援護局調査課事務官・坂田良右衞門の『法務関係拙論集』の詳細な読解を通じて、日本陸軍軍法会議と、フランス主導のBC級戦争犯罪裁判であるサイゴン裁判との結節点を発見し、論文として執筆した。 さらに、占領期日本(1945年から1952年)の死刑をめぐる社会状況を明らかにするために、アメリカ合衆国メリーランド州にあるメリーランド大学ホーンベイク図書館4階プランゲ文庫、およびThe National Archives at College Park, Marylandにて1ヶ月間の海外調査を行なうことができた。これは計画通りの進捗である。そこで入手できた資料が想定よりも多かったことから、当初の予定よりも研究が進んだといってもよい。プランゲ文庫では、占領期に検閲されていた法学系雑誌や総合雑誌等に掲載された死刑をめぐる議論についての入手困難な資料を、The National Archives at College Park, Marylandでは、1948年当時のアメリカ陸軍の死刑執行マニュアル等の公文書資料を入手した。同調査によって、ようやく1948年3月の死刑制度合憲判決をめぐる社会状況についての論文執筆が可能な状態となったのは大きな成果であった。ただし、アメリカ合衆国での調査を実施できたのは、2016年2月になってからのことであったので、具体的な成果として形にすることはできなかった。それゆえ、おおむね順調との評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度は、第一に資料が整った1948年の死刑制度合憲判決をめぐる社会状況についての査読つき論文を『犯罪社会学研究』に投稿する。同論文の重要な資料となる2015年度に入手したアメリカ陸軍の当時の死刑執行マニュアルは、未発表の資料であるため、翻訳を行ない、「季刊戦争責任研究」などの媒体に掲載して紹介することを目指す。 第二に、2015年度のプランゲ文庫での調査から、日本国憲法36条がアメリカ合衆国憲法修正第8条との関連で議論されていたことが明らかとなった。また、新聞などで戦犯の死刑が平和の象徴として扱われていたことも明らかとなった。このことをふまえ、当初の計画通り、太平洋戦争末期に刑務協会会長を務め、後に日本最初の死刑廃止運動団体である「刑罰と社会改良の会」を立ち上げた正木亮の刑罰思想、並びに巣鴨法務委員会で『戦犯裁判の実相』の序文を書き、東京裁判は復讐的裁判であったと位置づけた、正木とも旧知であった東邦彦の刑罰思想、そして戦争受刑者世話会メンバーで太平洋戦争時に司法大臣を務め、正木の刑罰思想の支援者でもあった岩村通世の刑罰思想、ならびに戦争受刑者世話会や「刑罰と社会改良の会」の刑罰思想――具体的には、「刑罰と社会改良の会」のメンバーの一人で、朝日新聞の論説主幹をつとめた笠信太郎や、戦争受刑者世話会のメンバーの一人である岸信介といった人々の刑罰思想――を、当時の時代状況、特にアメリカとの関係に注目しつつ明らかにする学会報告および査読つき論文執筆を目指す。学会報告先としては、日本社会学会と犯罪社会学会を、論文投稿先としては、戦争社会学研究会が新たに立ち上げるジャーナル(査読つき)や、『社会学評論』を考えている。
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Research Products
(2 results)