2016 Fiscal Year Research-status Report
ドイツの政治教育における雇用・労働問題の教育内容構成の研究
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15K17407
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
寺田 佳孝 国際医療福祉大学, 小田原保健医療学部, 講師 (50705960)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 政治教育 / コンピテンシー / カリキュラム / 教科書分析 / 労働・雇用問題 / 貧困問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、主に3つの観点から作業を進めた。 1つは、ドイツの政治教育におけるコンピテンシー概念の検討である。ドイツの政治教育原理では、児童生徒の主体的・批判的な判断力・行動能力の育成が重視されてきたが、近年、4つのコンピテンシー(専門知識・政治的判断能力・政治的行為能力・政治的態度・意欲)の習得が目指されている。この点について、現在ドイツを代表する政治教育学者の政治教育理論を検討した。本研究については、論文の形にまとめた(論文名「コンピテンシー概念に基づくドイツの政治教育―コンピテンシー論争とミッテルバウ・ドーラ強制収容所跡地の取り組み―」)。 第2に、ドイツの労働・雇用問題のカリキュラムの内容の検討である。ドイツ最大の人口を抱えるノルトライン・ヴェストファーレン州の中等教育段階の「政治/経済科」「社会科学科」等の教育課程では「民主主義能力の育成」を目的に、知識の習得と理解、判断と行動に係る4種類の能力の育成が目指される。生徒は、労働法制や労働協約、賃金や労働時間を巡る労使交渉について理解を深め、自ら問題を判断したり議論することを学ぶ。こうした主体的な判断力・行動力を育成するために、授業展開も、資料と課題を中心に構成されていた。本分析の成果については、2016年7月、日本カリキュラム学会第27回研究大会にて発表した。 第3に、ドイツの政治教育における貧困、格差等の経済問題の学習のカリキュラムを分析した。ドイツの政治教育理論は、生徒の自律的・批判的な判断力と行為能力の育成を目的とし、政治・社会の争点を積極的に学習内容とする点において、「論争性」を学習原理としている。そして中等教育段階の社会系教科の教育課程でも、貧困問題に係る資料と課題を中心にカリキュラムが編成され、学習者の主体的な判断力の育成が目指されていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、計3回の発表を通じて、主に以下3点の分析を進めてきた。 第1に、ドイツの政治教育における教育目的および習得を目指す達成目標(コンピテンシー)の解明である。この作業については、政治教育理論および実際のカリキュラム分析を行った。 第2に、ドイツの政治教育における労働・雇用問題のカリキュラムの内容構成である。この作業については、同国の現在の政治・社会状況に照らし合わせながら、ノルトライン・ヴェストファーレン州に注目し、その政治・経済科、および社会科学科におけるカリキュラムのなかでの労働・雇用問題の扱いを解明した。この成果については、既に学会誌『カリキュラム研究』に発表した(平成29年5月に発表)。 第3に、ドイツの政治教育における貧困問題のカリキュラムの分析である。この作業については、ノルトライン・ヴェストファーレン州の中等教育段階の社会系教科のカリキュラムを分析し、その貧困問題の扱いを分析した。 以上の3点については、おおむね計画通りに進展してきた。他方で、残された課題は、以下の2点である。 1つは、ドイツの政治教育における労働・雇用問題のカリキュラムの実際の授業展開の分析である。そして第2に、ドイツの政治教育における労働・雇用問題の扱いのなかでも、もっとも根本的な問いとして、「労働と時間」をめぐる問題をどのように考えるかについて、より思想的な分析を進めることである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の重点は以下3点である。 第1に、第1に、ドイツの労働・雇用問題の教育の更なる具体像である。教員と学習者が労働・雇用に関する教育の意義と課題をどう評価しているか等、参加者の意識について授業分析を通じて追究する。 第2に、労働と時間の再編成をめぐる議論と教育の関係である。従来の雇用労働中心の生活に対し、育児や教育、地域活動や介護等、日常の多様な活動を等しく評価し、人々が自分の状況や好みに合わせ働き方や時間をより自由に融通できるようにしようとする動きが欧米諸国で進んできた。こうした構想がドイツの教育でどのように扱われているのかカリキュラムの分析を通じて追究していく。
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Causes of Carryover |
今年度のドイツ調査の関連資金の清算を次年度に回したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ドイツ調査の関連費用(旅費および調査関連の人件費)
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Research Products
(4 results)