2015 Fiscal Year Research-status Report
多波長観測による銀河団同士の衝突が引き起こす電波放射の起源と質量進化の解明
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15K17610
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Research Institution | Japan Aerospace EXploration Agency |
Principal Investigator |
上田 周太朗 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 宇宙航空プロジェクト研究員 (40748258)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | X線天文学 / 銀河団の観測的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
銀河団はより小さな銀河団同士の衝突・合体により質量成長してきたと考えられている。衝突を示唆する現象は様々な波長で観測されており、例えばX線の場合、表面輝度分布の形状や銀河団高温ガス(ICM)の温度や密度のradial profileに見られるジャンプ等により、衝突中かどうか判定されてきた。X線で衝突中であると示唆される銀河団から、拡がった電波放射が発見されることが多く、それらは衝突によりICM中の電子が相対論的速度にまで加速されることで生じるシンクロトロン放射であると考えられてきた。しかし近年、X線観測から衝突の痕跡を見いだせない銀河団から拡がった電波放射が発見された。本研究では、衝突銀河団をX線・可視光(重力レンズ)・電波等の多波長観測を通して、拡がった電波放射の生成機構や銀河団の質量成長の解明を目指す。 前年度は、衝突中だと考えられている銀河団Abell 754について、共同で詳細なX線観測を行い、衝突がICMに与える影響に着目した解析を行った。これまで銀河団の衝突の数値シミュレーションから、衝突によるショックでICMが電離平衡ではなくなる期間があることが示唆されてきた。我々は最も分光能力の高い「すざく」衛星の性能を最大限発揮させ、Abell 754からNEIのICMを検出することができた。これにより衝突の物理に電離度という新たな観測情報を付け加えることができた。 また、次世代のX線天文衛星「ASTRO-H」の開発を行った。ASTRO-Hに搭載される軟X線マイクロカロリメーター(SXS)は、従来の20倍以上の分光性能を持つため、ICMの速度場を数100km/sの精度で測定することが可能になる。電波放射とICMの速度場の相関を初めて測定できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度は、電波観測とX線観測の両面から衝突銀河団の解明を行う予定であった。中でも、銀河団の中心に位置する最大輝度銀河(BCG)が数100M/yrの星形成率を持つという、他に類を見ない銀河団であるフェニックス座銀河団についてVLA電波望遠鏡で観測を行う予定であった。しかしこの観測は、観測スケジュールの都合によりキャンセルとなってしまったため、当初想定していた解析を進めることができなかった。 しかしX線解析については、共同研究を行うことで、Abell 754の詳細解析からNEIのICMを発見するという予想外の結果を出すことができた。NEIのICMは理論モデルからは存在が予測されていた。今回初めて検出できたことで、衝突によるショックがICMに与える影響や、ショック面の位置の推定が新しい観点から検証できるようになる。実際に我々は、電離度から衝突による加熱からのタイムスケールを測定しており、Abell 754については数10Myrという値を得ている。 よって総合的に評価すると、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、前年度に打ち上げられたASTRO-Hが初期機能確認と機上でのキャリブレーションを終え、定常観測モードに移行し、公開天文台となるはずだった。ところが軌道上でのトラブルによりASTRO-Hは1か月程度の観測を残して運用が停止してしまった。そのため今年度想定していた、SXSによるICMの速度場の精密測定を、様々な銀河団で行うことができなくなった。 そこで今年度は、現在も運用が続いているX線天文衛星や、これまでの衛星の観測データを解析することで、衝突銀河団の研究を進める。具体的には、角度分解能がきわめて高い「Chandra」を用いて、X線表面輝度分布の精密測定や、銀河団中の微小なX線構造のスペクトル解析を行う。衝突銀河団とBCGにクエーサーを持つ銀河団の両方を解析することで、相違点を明らかにする。 また、他波長観測については、シンクロトロン放射の観測のほかに、Sunyaev–Zel'dovich効果の観測を行うことで、ショック面の推定やICMの物理状態を解明する。
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Causes of Carryover |
2015年度に予定していたVLA電波望遠鏡による観測が、観測スケジュールの都合によりキャンセルとなってしまった。そのため、観測のために現地に赴く旅費として計上していた部分が未使用に終わってしまった。また、年度の後期については、ASTRO-H打ち上げ前準備と打ち上げ後の初期オペレーションのために国際学会に参加する時間的余裕を作ることができなかった。そのため、国際学会参加のための旅費として計上していたものも、未使用に終わってしまった。 これら上記の旅費の未使用が次年度使用額の大半を占めている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
元々旅費として計上していたもののため、2016年度の研究計画の中で、旅費として使用することを想定している。また、ASTRO-Hの初期観測のデータを論文として出版する際の投稿費用にも当てたい。
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[Journal Article] The Soft X-ray Imager (SXI) for the ASTRO-H Mission2015
Author(s)
Takaaki Tanaka, Hiroshi Tsunemi, Kiyoshi Hayashida, Takeshi G Tsuru, Tadayasu Dotani, Hiroshi Nakajima, Naohisa Anabuki, Ryo Nagino, Hiroyuki Uchida, Masayoshi Nobukawa, Masanobu Ozaki, Chikara Natsukari, Hiroshi Tomida, Shutaro Ueda, et al.
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Journal Title
International Society for Optics and Photonics
Volume: 9601
Pages: 96010E
DOI
Int'l Joint Research
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