2015 Fiscal Year Research-status Report
初期宇宙における物質-反物質非対称性の生成と素粒子集団励起
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15K17644
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
三浦 光太郎 名古屋大学, 基礎理論研究センター, 研究員 (50511432)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 宇宙の物質-反物質非対称性 / 電弱-TeVスケ-ル宇宙 / Resonant Leptogenesis / 右巻きニュートリノ崩壊率 / 有限温度 / 発散回避メカニズム / 非自明なスペクトル関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
観測から強く示唆される宇宙の物質-反物質非対称性(Baryon Number Asymmetry, BAU)は、素粒子論-宇宙論における最大の謎の一つである。素粒子物理学の最前線である電弱-TeVスケ-ル宇宙におけるBAU生成はResonant Leptogenesisシナリオを筆頭に盛んに研究されている。このシナリオでは、仮設粒子である右巻きニュートリノがHiggs粒子およびleptonに崩壊する過程を通してBAUのモトとなるlepton数が作られる。崩壊率の計算には電弱-TeVスケ-ルの温度効果を取り入れた式が必要であり、平成27年度の研究においてその解析的表式の詳細と性質を明らかにした。崩壊過程の中間状態には、Weak-Bosonのプラズマが関与するが、その分布関数-Bose-Einstein分布-は発散する場合がある。上記の崩壊率はそのような発散を含む関数の積分値であるが、物理量なので積分結果は有限でなければならない。発散がどの様に回避されて有限値がでるのか? 描像を簡単化すれば、崩壊が許される運動量領域(support)内には発散が含まれない事が発散回避のメカニズムである。しかしsupportの「境界」付近に発散が生じている場合が多くあり、その振る舞いを定量的に評価する事はもう一段複雑な問題である。本研究は従来の研究と異なり、崩壊先のleptoonの有効自由度として電弱スケ-ル温度効果を含んだ非自明なスペクトル関数を用いるが、これが発散の問題を非自明にしている要因の一つである。平成27年度の研究の成果のコアは、support境界で非積分関数が発散する場合に、適切なparameterによる展開式を見つけ定量的に評価する方法を開発した点にある。これは今後予定されている崩壊率とBAUの数値計算において、不可欠なステップである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記で説明した発散の問題は、研究計画段階で概要は想定はしていたが、細部まで詳らかにするのに予想を超える解析計算量が必要であった。これに付随して数値計算のcodingも改良する必要があり、試行錯誤に時間を要した。ただしこれらの困難は原理的なものではなく、慎重かつ適切に事を進めれば確実に解決する問題である。
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Strategy for Future Research Activity |
1) まず最初に右巻きニュートリノの崩壊率の計算を、我々の先行研究 [1] で求めたスペクトル関数を用いて評価する。これまでの研究成果で、崩壊率の計算を完成させる道具立ては全て揃っている。従って、7月の国際会議 [2] までに完成させる事を目指す。2) スペクトル関数の改良にSchwinger-Dyson方程式を用いた方法を開発する。解のgauge依存性の問題が懸案だが、最近の論文 [3] が参考になる。3) 最終目標として、Resonant Leptogenesisの簡単なbenchmark modelにおいてBAUの計算を行い現象論的考察をする。4) 上記と並行して、本研究と最近の興味深い進展との関係性を考察する: Higgsの有効potential [4]、電弱相転移と重力波 [5]、LeptogenesisとLHCによる750GeV excessの関係 [6]など。 References: [1] K.Miura, Y.Hidaka, D.Satow and T.Kunihiro, Phys.Rev.D88, 065024 (2013). [2] SEWM 2016, July 11(Mon) - 15(Fri) University of Stavanger, Norway. [3] H.Kohyama, arXiv:1601.04404 [hep-ph]. [4] J.Espinosa, et.al. JHEP1509 (2015) 174. [5] R.Jinno and M.Takimoto, arXiv:1604.05035 [hep-ph]. [6] A.Kusenko, L.Pearce and L.Yang, arXiv:1604.02382 [hep-ph].
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Causes of Carryover |
平成27年度中に右巻きニュートリノの崩壊率の数値計算を、九州大学或いは名古屋大学のHPC Clusterを用いて開始する予定であったが、やや計画が遅れており平成28年度にずれ込んだ。なお5月下旬に数値計算を始め、6月中に崩壊率の第一報を得られる予定である。またMathematicaのサイト-ライセンスを購入予定であったが、現在所属しているAix-Marseille大学でライセンスが(科研費を使用ぜずとも)得られたので、その分を28年度における研究活動に充てる事となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の数値計算のHPC Cluster使用料、複数の国際会議(SWEM 2016, 7/11- 15, https://indico.cern.ch/event/507875/ 等)への参加料および旅費、日本国内における研究打ち合わせに際する旅費、および日本物理学会における発表に伴う旅費。
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