2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K17691
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山下 穣 東京大学, 物性研究所, 准教授 (10464207)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 超低温 / 強相関電子系 / 超伝導 / 量子臨界性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は強相関電子系研究を希釈冷凍機温度より下の超低温度領域にまで拡張するため、 (1)ポメランチューク冷凍機開発による新しい超低温作成方法の開発 (2)超低温領域で有効な電子系研究のための測定手法の開発 の2点を目的としている。今年度は以下のような進展があった。 (1)ポメランチューク冷凍機開発のための技術開発を行った。特に、ポメランチューク冷凍機の運転に必要なヘリウム3ガスを高純度化する装置に必要な機材を選定し、装置設計を行った。また、既存の希釈冷凍機に組み込むためのポメランチュークセルの設計を行い、次年度以降に予定しているテスト運転に必要な準備を整えた。 (2)冷凍機開発と並行して、超低温領域における測定技術を確立するために、既存の核断熱消磁冷凍機を用いた重い電子系物質CeCoIn5の超低温量子振動測定を行った。その結果、臨界磁場より上の常伝導状態において、希釈冷凍機温度以下の超低温領域で量子振動の振幅と周波数に変化が現れることを発見した。我々の結果は、CeCoIn5の超伝導相と隣接するなんらかの秩序状態が存在する可能性があることを世界で初めて示したものである。この物質における特異な超伝導状態は隣接する秩序相との間の量子臨界ゆらぎの影響を受けている可能性が指摘されていたが、別の秩序相が存在するかどうかは今まで謎であった。我々の結果は超低温測定によってこの長年の謎を明らかにできる可能性を示している。今後、NMR測定などを用いることでこの秩序相の詳細を明らかにする予定である。さらに、この結果によって、我々の量子振動測定が超低温領域で有効な測定であることが分かった。加えて、希釈冷凍機温度領域より下の超低温度領域に未知の電子状態があることを示すこの結果は、今後の超低温度領域における物性研究が非常に有望であることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ポメランチューク冷凍法の開発は計画通り進行している。当初の計画以上の進展があったのは超低温領域におけるCeCoIn5の量子振動の変化が発見されたことである。超伝導相と隣接する秩序相の存在を示唆するこの結果は、当初全く予期しなかったものである。この結果は、強相関電子系物質の量子振動測定が超低温度領域で有効であることを示す当初の目的を大きく超え、超低温度領域における強相関電子系物質の豊富な物理状態の存在を示すものであり、今後の進展に大きな希望を与える。現在すでに、NMR測定などから秩序相の詳細を明らかにする研究に発展しており、今後の大きな発展が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
CeCoIn5において見つかった秩序相は磁気秩序相である可能性が高い。今後、その詳細をNMR測定から明らかにする。予備的な測定から超低温度領域でもNMR信号を得ることに成功しており、今後の測定から新しく見つかった秩序相の詳細が明らかになることを確信している。 この結果は希釈冷凍機温度以下に冷却しても何もないと思われていた強相関電子系研究の認識を大きく更新するものである。今後の超低温研究を加速するため、ポメランチューク冷凍法を用いた電子物性測定技術を確立し、より簡便な超低温度測定を実現する。
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Research Products
(5 results)
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[Presentation] Mn3Snの熱ホール測定2016
Author(s)
今井悠介
Organizer
日本物理学会 第71回年次大会(2016年)
Place of Presentation
東北学院大学泉キャンパス(宮城県、仙台市)
Year and Date
2016-03-19 – 2016-03-22
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