2015 Fiscal Year Research-status Report
長江希釈水が励起する東シナ海の大気海洋相互作用とその東アジア縁辺海への波及効果
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15K17763
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
加古 真一郎 鹿児島大学, 理工学域工学系, 助教 (60709624)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 長江希釈水 / 東シナ海 / 水温逆転層 / 大気海洋相互作用 / 海洋循環モデル / 領域大気モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、長江希釈水が励起する東シナ海の海面水温変動や大気応答を数値モデルや人工衛星データ等を用いて調べている。DREAMS (Data Assimilation Research of the East Asian Marine System)を用いた長江からの淡水流出がある場合とない場合の双子実験結果から、夏季東シナ海の陸棚の広い範囲において、長江希釈水が水温低下に統計的な有為性を見出せる程度寄与をしていることがわかった。上記の双子実験の詳細な比較結果は、鉛直一次元過程が長江の河口付近で海面水温の昇温に寄与し、水平移流が陸棚の広い範囲において、海面水温の低下に寄与していることを示していた。逆方向の粒子追跡実験結果からは、冬季の中国沿岸域において形成された冷水塊が、夏季の東シナ海陸棚域における海面水温低下に大きく影響することが示された。冬季には、南西向きの季節風に関連し、長江由来の低塩分水は中国沿岸に沿って流れ薄い混合層を形成する。冬季の熱放出に関連した低水温化による高密度化は低塩分水によって相殺され、鉛直対流は励起されず、上層と下層の熱交換は妨げられる。その結果、上層が冷たく下層が暖かい水温逆転層が形成される。そして、夏季の北東向きの季節風に起因してこの冷水塊が東シナ海の広い範囲に運ばれ、海面水温の低下に季節を越えて寄与する。以上の結果は、長江希釈水が東シナ海の海洋循環システムや大気海洋結合過程に対して大きく影響することを示している。一連の成果は、2015年度日本海洋学会秋季大会において口頭発表した。また、査読付き英文論文として、American Meteorological SocietyのJournal of Physical Oceanographyに受理され、発表準備段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画において初年度に予定されていた数値実験及び解析が滞りなく行われた。当初の予想通りに、長江希釈水が東シナ海の海面水温場の形成に対して重要な役割を担っていることが確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
長江希釈水によって形成された水温場がどのようにして大気場に影響を与えるのか、またその範囲はどの程度波及するのかということが課題として残されている。領域大気モデルであるWRF (Weather Reserch and Forecast)は、東シナ海を対象として構築済みであり、人工衛星データやAMeDASを用いた精度検証も完了している。故に、下部境界条件である海面水温に長江希釈水の影響がある場合と、その効果を差し引いた場合の双子実験を行うことで、長江希釈水が励起する東シナ海の大気応答を明らかにし、またそのメカニズムについても議論する予定である。WRFの出力結果を様々な時空間スケールで議論する予定であるが、必要な場合はDREAMSとWRFを用いた結合モデルの構築も試みる。
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Causes of Carryover |
当該年度に投稿した論文が3月に受理されたが、年度末ということもあり年度内に支払いを完了することができなかったためである。また、計算機を当初予定した金額よりも低く抑えた価格で購入することができたことにも起因する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述した論文の掲載料として使用する。残金は計算機周りの設備強化に使用する。
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