2015 Fiscal Year Research-status Report
栄養繁殖個体間において形質の不均一性を引き起こすエピジェネティクス
Project/Area Number |
15K18638
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大野 翔 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (10722001)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | ダリア / 花色 / アントシアニン / カルコンシンターゼ / 転写後遺伝子サイレンシング / 不安定性 / 栄養繁殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
複色花ダリアを栽培すると品種本来の複色花弁の他に単色花弁をつけることがある。ダリアは栄養繁殖によって増殖されることから、この不安定な花色発現は遺伝的な要因が原因ではない。本研究は、赤白複色ダリアである‘結納’をモデル植物としてこの現象を解明することで、栄養繁殖後代の個体間において見られる形質の不均一性を引き起こすエピジェネティックな変異メカニズムを解明するものである。 本年度は、花弁色とシュートにおけるフラボノイド蓄積の関係を詳細に明らかにするために、開花した花序の花弁色と植物体全体の葉のフラボノイド蓄積の関連を解析した。その結果、花序に一枚でも赤色花弁を生じた個体は植物体全体にフラボノイドを蓄積しやすく、逆にフラボノイドを蓄積しにくい個体はすべて複色花弁のみの花序を生じた。複色花弁と単色花弁、あるいはフラボノイド蓄積の有無に差異のある葉におけるフラボノイド合成に関わる遺伝子の発現比較を行ったところ、複色花弁の純白部ではDvCHS1およびDvCHS2、フラボノイドを蓄積していない葉ではDvCHS2の発現量の減少が見られた。フラボノイドを蓄積しない葉からはCHSのsmall RNAが検出され、フラボノイド蓄積の有無に差異のある葉においてsmall RNAを解析すると、フラボノイドを蓄積しない葉からのみDvCHS2にマッピングされるsmall RNAが検出された。よって、フラボノイドを蓄積しない葉でもDvCHS2のPTGSを生じていることが示された。したがって、‘結納’における形質の不安定性は、植物体全体でのDvCHS2のPTGSのON/OFFによるフラボノイド生合成の不安定性として理解できると考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、1年目には花弁や葉における既知の遺伝子発現解析・siRNAの検出・small RNAのマッピング解析など、実施できればデータを出すことができる実験を予定していた。予定通り実験を実施できたので、葉においてもCHSのPTGSを生じているという一定段階までの結論を得ることができた。よって、本研究課題はおおむね順調に進展しているとした。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度に‘結納’において花弁色とシュートにおけるフラボノイドの有無に相関が見られたので、‘結納’と同様に形質の不均一性を示す他の複色花品種に関しても、開花した花序の花弁色と花序直下葉のフラボノイド蓄積の関連を調査し、同様の現象を生じているかを調査する。 PTGSを誘導する遺伝子構造として、ゲノムにおける遺伝子のタンデムあるいは逆位リピート構造が知られている。そこで、inverse PCR法などによりリピート構造を探索し、CHSのPTGSを誘導する遺伝子を単離する。これまでの研究からCHS2のゲノム構造が原因である可能性が高いため、CHS2についてリピート構造を探索する。リピート構造を単離できた場合は、単離した遺伝子について近傍ゲノム領域を単離した後、複色花弁と赤色花弁、あるいはフラボノイド蓄積の有無が異なる葉について、バイサルファイトシーケンスによりDNAのメチル化の割合を比較し、形質の変化と連動してDNAのメチル化頻度が大きく変化する遺伝子領域を決定する。もし、CHS2のリピート構造の単離が難航し、CHSのPTGSを誘導する遺伝子を決定できなかった場合、メチル化感受性増幅長多型(methylationsensitive-AFLP)により、赤色花弁と複色花弁間あるいはフラボノイドの有無が異なる葉の間でDNAのメチル化に違いがある遺伝子を網羅的に探索することも検討する。
|
Causes of Carryover |
次世代シークエンスによる解析をさらに予定していたが、予備実験の結果からもう少し実験を行い詳細なデータを得た方が良いと判断したため、一部見送った実験がある。また、CHS2のゲノム解析の一部を次年度に先送りしたため、その分の物品費に余剰が出ている。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に次世代シークエンス解析を追加で行う予定である。また、平成27年度に一部先送りしたCHS2のゲノム解析を平成28年度から実施する予定であるので、その部分に前年度余剰となった助成金を用いる予定である。
|