2016 Fiscal Year Research-status Report
動脈硬化リスク因子としてのヘリコバクター・シネディ感染病態のコホート研究
Project/Area Number |
15K20857
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
松永 哲郎 東北大学, 医学系研究科, 助教 (00723206)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Helicobacter cinaedi / nested PCR / 健常保菌者 / 感染疫学 / 細胞内寄生性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヘリコバクター・シネディ(Helicobacter cinaedi)はヒトや動物の腸管・肝臓から検出される腸肝ヘリコバクター属であり、1984年に初めてヒトへの感染が確認された新興感染症菌である。近年、本菌感染症の発症例および再発例が多く報告されているが、病態発現機構や感染疫学など不明な点が多く残されている。現在までに当研究室では、本菌感染症の血清診断および遺伝子検出法(PCR法)を開発し、これらの方法を用いて本菌感染による動脈硬化症や心房性不整脈の進展への関与を明らかにしてきた。 本課題研究において、本菌感染による病態発現機構および疫学特性の解明に向けた研究を展開しており、当該年度では、開発したPCR法などを用いて一部の健常者の腸管内に本菌が定着している可能性を明らかにした。一方で、本課題研究遂行の過程で、本菌感染症における細胞内寄生性について解析したところ、本菌感染に関わる新たな制御因子として活性パースルフィドおよびオートファジーの関与が明らかとなった。従って、本菌はマクロファージ内において細胞内殺菌機構であるオートファジーを回避して細胞内寄生する可能性が示唆された。これらのことから本菌は細胞内寄生によって血管内定着し、宿主との共生関係を構築することで動脈硬化症を含む本症の病態を増悪させる可能性が考えられる。本菌は1984年に初めてヒトへの感染が確認されて以降、日和見感染菌として考えられてきたが、このような本菌の血管内定着機構としての細胞内寄生の分子機構の解明は本症の治療や予防への応用に向けて極めて重要である。今後、この新規知見に関する追加解析を行い、H. cinaedi感染疫学および病原性発現機構を明らかにし、本感染症の予防や治療に向けた研究を推進する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題研究において、本菌感染による病態発現機構および疫学特性の解明に向けた研究を展開している。当該年度では研究実施計画に沿って、解析規模を拡大させて健常者試料を用いたPCR法による保菌スクリーニング解析を行った。その結果、健常ボランティアの274検体から複数の陽性例(9検体)を認め、さらに、培養法により生菌の存在を認めた。従って、本菌が一部の健常者の腸管内に定着している可能性が示唆された。 また、本課題研究遂行の過程で、上記の本菌感染による動脈硬化症との関与および健常保菌者の存在に加えて、本菌感染による致死報告例がないこと、同一菌株による反復感染することなどから、本菌は健常者への感染・保菌(潜伏感染)によって動脈硬化病態を増悪させる可能性が考えられた。一方最近、当研究室では、細菌感染においてセカンドメッセンジャーである8-ニトロ-cGMPを介した新規オートファジー誘導経路および細菌由来の活性パースルフィドによる制御機構を明らかにしている。そこで、動脈硬化リスクとしての本菌の持続感染機構を明らかにするために細胞内寄生性について解析を行った結果、本菌は感染マクロファージ内においてオートファジーを回避して細胞内寄生する可能性が示唆された。本菌は1984年に初めてヒトへの感染が確認されて以降、免疫異常患者からの検出が多く報告されていることから日和見感染菌として考えられてきた。しかしながら、これまでに知られていない上記のような活性パースルフィドおよびオートファジーが関与する本菌の血管内定着機構としての細胞内寄生の分子機構の解明は本症の治療や予防への応用に向けて極めて重要である。以上のことより、本菌は細胞内寄生によって血管内定着し、宿主との共生関係を構築することで動脈硬化症を含む本症の病態を増悪させる可能性が考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
動脈硬化症増悪の原因細菌としてのH. cinaedi による細胞内寄生の分子機構を解明するために、本菌をマウスに感染させて本菌の遺伝子診断法および培養法を用いて検出を行い、また、骨髄系細胞における細胞内寄生の分子機構を特にオートファジー回避に着目して解析を行う。加えて、最近確立した質量分析器を用いたイオウ代謝解析法により、細菌由来硫化水素関連化合物と細胞内寄生との連関について解析する。これらの解析により、H. cinaedi の細胞内寄生の分子機構を明らかにし動脈硬化症を含めた本菌感染症の予防・治療への応用に向けた研究を推進する。
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Causes of Carryover |
当初計画を効率的・効果的に進めた結果、計画より少ない直接経費でヘリコバクター・シネディの感染病態と動脈硬化リスクに関する当初研究目的を概ね達成することが出来た。一方で、本課題研究遂行の過程で本菌感染に関わる新たな制御因子として活性パースルフィドおよびオートファジーの発見があり、上記の本研究の目的をより精緻に達成するために、この新規知見に関する追加実験を行う必要が生じたためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H. cinaediによる細胞内寄生の分子機構の解明に向けた、遺伝子診断法および培養を用いた感染マウスからの本菌の検出、骨髄系細胞における細胞内寄生性の分子機構の解明、イオウ代謝解析法による活性パースルフィドと細胞内寄生との連関についての解析の為の実験に関する試薬や消耗品などの物品費に使用する。また、研究成果を論文にまとめ投稿する為の英文校正や論文投稿費として使用する。
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[Journal Article] Protein polysulfidation-dependent persulfide dioxygenase activity of ethylmalonic encephalopathy protein 1.2016
Author(s)
Minkyung Jung, Shingo Kasamatsu, Tetsuro Matsunaga, Soichiro Akashi, Katsuhiko Ono, Akira Nishimura, Masanobu Morita, Hisyam Abdul Hamid, Shigemoto Fujii, Hiroshi Kitamura, Tomohiro Sawa, Tomoaki Ida, Hozumi Motohashi, Takaaki Akaike.
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Journal Title
Biochemical and Biophysical Research Communications
Volume: 480
Pages: 180-186
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] Formation and signaling functions of a new signaling molecule 8-nitro-cGMP in bacteria2016
Author(s)
Tetsuro Matsunaga, Tomoaki Ida, Soichro Akashi, Minkyung Jung, Hiroyasu Tsutsuki, Hideshi Ihara, Tomohiro Sawa, and Shigemoto Fujii, Takaaki Akaike
Organizer
The 9th International Conference on the Biology, Chemistry, and Therapeutic Applications of Nitric Oxide
Place of Presentation
Sendai International center, Sendai, Japan
Year and Date
2016-05-20 – 2016-05-23
Int'l Joint Research
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