2015 Fiscal Year Research-status Report
藍藻及び原始植物葉緑体の表層膜安定化機構の解明とその進化的関連性の解析
Project/Area Number |
15K20860
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
児島 征司 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (20745111)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 細胞壁 / 外膜 / チャネル / ペプチドグリカン |
Outline of Annual Research Achievements |
[1] 具体的内容:外膜の安定的維持には、細胞壁ペプチドグリカン (PG) 接着性の外膜蛋白質が必須である。H27 年度中に、藍藻Synechocystis sp. PCC6803(以下Synechocystis)および灰色藻 Cyanophora paradoxaの葉緑体(以下cyanelle)から外膜- PG間接着蛋白質を単離・同定した。Synechocystisは3つの相同蛋白質Slr0042, Slr1841, Slr1908を接着蛋白質として保持しており、予想通りこれら全てはSelenomonas ruminantiumの外膜-PG間接着蛋白質Mep45と類似のドメイン構造(N末端側のPG結合ドメインとC末端側の外膜貫通領域)を有していた。精製PGとの結合解析を行い、これらは N末端領域とPG結合型糖鎖との相互作用を介して PG に結合することを証明した。一方cyanelle では二つの相同かつ外膜に最も多量に存在する蛋白質( PapC1, 2 と命名)が外膜-PG間接着蛋白質として機能していた。papC1, 2遺伝子を同定し系統解析を行ったが、これらはどちらも藍藻蛋白質とは全く相同性を示さず、驚くことに藍藻とは全く類縁関係の無いPlanctomycetes門細菌の表層蛋白質と相同性を有していた。PapC1, 2 を可溶化・精製し、人工リポソームに再構成して機能解析した結果、これらは分子量約1,000以下の化合物を非特異的に通過させる拡散チャネルを形成することがわかった。 [2] 意義・重要性:藍藻から原始葉緑体 (cyanelle) への進化的変換には、①藍藻の外膜透過障壁性の解消、②外膜の安定的維持のための、外膜-PG 間接着蛋白質(藍藻を含むグラム陰性細菌では、例外なく一細胞あたり 10^6 分子程度存在する)の保持が必須である。PapC1, 2 は上記①、②を満たす機能をもつことから、藍藻から葉緑体への進化過程における外膜機能変換に深く関与する蛋白質であると推察した。一方で驚くことにその起源は非藍藻系統にあると考えられ、葉緑体成立過程における外来因子の関与が強く示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来の計画通り、Synechocystisおよびcyanelleから外膜- PG間接着蛋白質を単離・同定した。藍藻由来の外膜- PG間接着蛋白質がcyanelleにおいても保存されていると予想していたが、cyanelleの外膜-PG接着蛋白質PapC1, 2は藍藻ではなくPlanctomycetes門細菌の表層蛋白質と相同性を示した。当初の仮説は外れたが、藍藻から葉緑体への進化過程における外膜機能変換に、非藍藻系統由来の因子が関与したことが強く示唆され、結果として予想よりも興味深い研究展開が可能になった。
|
Strategy for Future Research Activity |
Cyanelleの外膜-PG接着蛋白質PapC1, 2がPlanctomycetes門細菌由来であるという結果を受けて、当初の予定を若干軌道修正し今後は以下の研究を遂行する。① Planctomycetes 門細菌の外膜蛋白質を詳細解析し、cyanelle 外膜との類似性を確認・検証する。② PapC1, 2 と PG との結合作用を詳細解明する。PapC1, 2 は既知 PG 結合ドメインを持たないため、蛋白質-PG 間相互作用における新規発見が予想される。③ Cyanelle の PG は一般的な細菌では見られない N-acetylputrescine ( putrescine はポリアミンの一種)の共有結合による修飾を受けている。本分子の生理機能を、主にポリアミン合成系の阻害剤を使用して解析する。
|
Causes of Carryover |
藻類培養用の人工気象器を購入予定であったが、本学の植物培養室のスペースを借りることができ、大型フラスコとエアポンプを用いる大量培養法を確立できたため人工気象器が必要なくなった。その分、研究支援者を雇用し研究推進の加速化を図った。差引額として約30万円の繰越が生じたが、不慮の支出(機器の故障など)に備えて残しておいた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究支援者の謝金1か月分と、残りは物品費(研究用消耗品)に充てる予定である。
|