2015 Fiscal Year Research-status Report
中期朝鮮語ハングル文献における原典遡源・定本確定のための方法論的研究
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15K21488
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
杉山 豊 京都産業大学, 外国語学部, 助教 (50733375)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中期朝鮮語 / ハングル文献 / 杜詩諺解 / 校勘 / 定本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、『杜詩諺解』初刊本の各巻のうち、複数の本の伝わる巻について、現存諸本間での校勘を施し、初刊本の範囲内において最も理想的なテキストの姿を確定する作業を行った。具体的には、複数の本を対校してその異同の箇所を明らかにした上で、『杜詩諺解』の他の箇所や同時期の他の文献に見られる言語事実、もしくは杜詩の諸注に鑑みて、いずれの形がより理想的なものであるかの判断を、一々に下した。そうしてその旨を校注として指摘した(順次公刊予定)。 校訂の方針は以下の通り:1. 「校正本」の存する巻については、原則として校正本に従った;2. 破損・汚損等により不鮮明な文字については、破損・汚損等の無い本に従った。ただし「校正本」における破損・汚損等の箇所については、重刊本も併せて参照した;3. 傍点の有無の異同に関しては、『杜詩諺解』を含め同時期の諸文献に見られる言語事実に照らして矛盾しない限り、傍点の‘無いもの’よりも‘あるもの’に、‘少ないもの’よりも‘多いもの’に従った。この原則は、上記1)に優先する。この原則には問題無しとしないが、別途に考慮すべき変数のある場合は、校注で個別に指摘した;4. 「非校正本」のみ存する巻における傍点以外の異同については、重刊本により近い方に従った。 以上の作業の意義は以下の通り:1. 低い次元の変数を取り除いた、純粋な言語事実の把握。特にイントネーションの研究にあって、‘傍点が無い’という事実が、何らかの言語事実の反映なのか、或いは単に墨付きが悪いだけなのかの判断は極めて重要であるが、これは校勘を通してのみ可能である;2. 編纂過程の解明。原詩の誤りを訂正するに伴い、諺解文も併せて訂正される場合と、原詩のみ訂正される場合があることが明らかとなった。後者は印出時における単純な誤植、前者は、諺解過程においてすでに誤った原詩が参照されていたことを意味する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画においては、『杜詩諺解』初刊本各巻のうち、複数の異本の伝わる巻にいて対校を施し、現存する初刊本の範囲内において導き出される理想的なテキストの姿、すなわち「第一次定本」を確定する予定であった。しかしながら、現在のところ同範囲内において対校作業の完了しているのは、対象となる14巻のうち6巻と、当初の半ばに満たない。これに至った経緯を述べると以下の通りである:1. 初刊本現存諸本の対校に先立ち、これまでに行ってきた原本調査で得られた資料の、テキスト形式での電子化に着手することとしたが(後述)、この作業に予想外の時間を要したこと;2. すでに電子化を済ませていた巻に関しても、「校注本」の公刊を見据え(後述)、電子化のフォーマットを、これまでに採用していたものから大幅に変更したこと。 以上のような状況にもかかわらず、「(2)おおむね順調に進展している。」と評価される理由は以下の通りである。すなわち、当初想定していた作業形態は、現存諸本のうちから一本を底本に定め、そこに紙媒体での作業により、他本との校合内容を注記して実質的な「第一次定本」とした後、第二年度以降、重刊本との校勘を経た上で電子化をして、校注を付した定本を公開する、というものであった。しかしながら、「校正本」という絶対的優位なテキスト(上「研究実績の概要」項1)参照)の存しない巻については、異本間の対校と同時進行で電子化を進め、電子媒体の上で相互につき合わせての闕を補い合いつつ、校注を施す方法が、異本間の関係の実態に即している判断された。つまり、当初の研究計画と比べ、手順は前後したのみであって、進捗状況として遅れているとは判断されないのである。また、電子化のフォーマットは、最終的にコーパスとして公開する際のことも考慮して作成されているため、今後の作業効率はむしろ向上するものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
第二年度以降には、まずは第一年度で遂行してきた、『杜詩諺解』初刊本諸本間校合の範囲内で得られる「第一次定本」の完成を急ぐ。そうした上で、「第一次定本」と重刊本との校合作業に着手し、「第二次定本」の作成を目指す。初・重刊本間の異同は大きく:1. 15世紀末から17世紀中葉に至る約150年間の言語変化を反映するもの(主に音韻変化や、もしくは単純な表記法の変化に起因);2. 語義、文脈等の改変を伴うもの(主に諺解の際の語彙選択、もしくは杜詩解釈の変更に起因)の二種類に分けられる。このうち、2.の型は、初刊本のうち校正本の姿を反映するものであり、非校正本のみ存する、初刊本のうち多くの巻については、現在見ることのできない、より「完成された」初刊本の姿を垣間見せるものである。ここに、異同の型1)への検討を通して明らかとなる初・重刊本間の言語的対応の傾向性を加味することで、初刊本のうち校正本の伝わらない巻についても、かつて存在したであろうその姿をかなりの精度をもって復元することが可能となる。 その成果は校注本として公刊する予定であり、また、その本文たる定本そのものも、電子コーパスとしてひろく研究者の利用に供する予定である。 なお、第一年度には、物品(書籍:『韓国文集叢刊』1~200)購入費用として80万円の前倒し請求を行っており、これに伴い、第二・三年度の請求額は、当初予定の各100万円から、各60万円へと変更となった。しかしながら、1. これまで校合作業を進める過程で、現在までに蒐集された資料の範囲内でもかなりの精度を以て校合が可能であること;2. 前倒し請求での書籍購入により、本来調査すべきであった文献を、随時参照し得る環境が整ったことにより、当初予定していた文献調査のための旅費、文献購入・複写費が縮小されたとしても、研究遂行に大きく支障を来すことは懸念されない。
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