2017 Fiscal Year Research-status Report
精緻な神経回路を作る、個々のニューロン識別機構(国際共同研究強化)
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15KK0331
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
金子 涼輔 群馬大学, 大学院医学系研究科, 助教 (40390695)
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Project Period (FY) |
2016 – 2019
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Keywords | プロトカドヘリン / 小脳 / 遺伝子改変マウス |
Outline of Annual Research Achievements |
ニューロンは適切なパートナーを識別して神経ネットワークを作る。しかし、個々のニューロンを識別する分子メカニズムには不明な点が多い。私たちは、個々のニューロンごとに異なるプロトカドヘリン(Pcdh、細胞接着分子)が発現する事を見出した(Nat Genet, 2005, JBC, 2006など)。現在、本知見を基にした仮説「同じPcdhを発現するニューロン同士で神経回路を作る」の検証を進めている。具体的には、マウス小脳をモデル解析系とし課題(i)(ii)(iii)を検討している。(i)Pcdh欠損により神経回路が異常になるか? (ii)Pcdh欠損により脳機能が異常になるか? (iii)神経回路を構成するニューロン群におけるPcdh発現は同一か?本年度の本国際共同研究では、下述のように課題(ii)(iii)が大きく進展した。 課題(ii)Pcdh欠損により脳機能が異常になるか?を精査した。昨年度までに、小脳のほぼ全てのニューロンにおいてPcdhを欠損させたマウス(小脳Pcdh KOマウス)にて運動学習能の低下を認めていた。すなわち、小脳におけるPcdhによる運動学習の制御が示唆される。今年度は、どのニューロン種類にてPcdhが機能するか?を検討した。作製した2種類の細胞種特異的Pcdh欠損マウス(プルキンエ細胞および顆粒細胞を標的)のうち繁殖が順調に進んだ、顆粒細胞特異的Pcdh欠損マウスの運動学習能を調べたところ、低下していた。 課題(iii)神経回路を構成するニューロン群におけるPcdh発現は同一か?にて必要となるPcdh発現細胞可視化マウス(蛍光タンパク質ノックインマウス)の作製・解析が順調に進んだ。Pcdhアイソフォームの1種(Pcdhγ)発現細胞を可視化できるマウス脳を組織学的に解析したところ、Pcdhγタンパク質局在を免疫染色にて解析しうることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、仮説「同じPcdhを発現するニューロン同士で神経回路を作る」の検証を目的としている。以下に、個々の課題ごとに進捗状況を記す。 課題(i)「Pcdh欠損により神経回路が異常になるか?」は、課題(ii)にて標的とする細胞種(小脳顆粒細胞)を同定できた。本細胞種が作る回路形態を調べるための準備が進んでいる。 課題(ii)「Pcdh欠損により脳機能が異常になるか?」は以下の成果を得ている。これまでに小脳のほぼ全てのニューロンにおいてPcdhを欠損させたマウス(小脳Pcdh欠損マウス)では(あ)瞬目条件付け反射学習能には異常がないが、(い)運動学習能が低下していた。すなわち、Pcdh欠損により脳機能が異常になることが明らかとなり、本課題の当初目的を達成した。次いで、運動学習においてPcdhが必要な細胞種の同定を試みた。そのため、新たな遺伝子改変マウス2種(プルキンエ細胞あるいは顆粒細胞種特異的Pcdh欠損マウス)の作製に成功した。繁殖が順調に進んだ顆粒細胞種特異的Pcdh欠損マウスでも(あ)瞬目条件付け反射学習能には異常がないが、(い)運動学習能が低下していた。本結果は、顆粒細胞におけるPcdhが運動学習に関わることを示唆する。一方、本マウスでの学習能の低下程度は小脳Pcdh欠損マウスよりもマイルドであった。これは、顆粒細胞以外の細胞でもPcdhが運動学習に関与していることを示唆している。 課題(iii)「神経回路を構成するニューロン群におけるPcdh発現は同一か?」に必要となるPcdh発現細胞可視化マウス(蛍光タンパク質ノックインマウス)の作製・解析が順調に進んでいる。これまでに、Pcdhb3およびPcdhg発現細胞の蛍光タンパク質による可視化に成功した。今後は本マウスを用いた解析を進めると共に、他Pcdhアイソフォームの可視化マウスも作製する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでに得られた結果に連鎖する課題を解く。すなわち、課題(ii) 「Pcdh欠損により脳機能が異常になるか?」について、(A)2017年度に得られた結果を足がかりとして研究を大きく推進させると共に、(B)2017年度に完成したプルキンエ細胞特異的Pcdh欠損マウスの脳機能を調べる。さらに、課題(i)(iii)(下述)についても進める。 (A)「運動学習能の低下」を見いだした顆粒細胞特異的Pcdh欠損マウスを精査する。そのため、以下の方策を取る。本マウスの(A-1)群馬大学への輸送ならびに繁殖、(A-2)運動学習の忘却および再学習能の測定、(A-3)行動学的解析、(A-4)小脳構造の組織学的解析。 (B)プルキンエ細胞特異的Pcdh欠損マウスの脳機能を調べるため、以下の実験を行なう。(B-1)眼球運動学習能の測定、(B-2) 協調運動機能の測定、(B-3)時間学習能の測定。具体的にはChris De Zeeuw教授が得意とする、眼球運動の位相逆転学習試験、Erasmus Ladder試験ならびに瞬目条件付け反射学習試験をプルキンエ細胞特異的Pcdh欠損マウスに対して行う。 さらに、課題(i)「Pcdh欠損により神経回路が異常になるか?」および課題 (iii)「神経回路を構成するニューロン群におけるPcdh発現は同一か?」についても以下のように進める。課題(i)では、Pcdh欠損により脳機能に異常が見られた小脳顆粒細胞が作る神経回路を解析する。この際には、顆粒細胞の形態やプルキンエ細胞の形態(樹状突起や軸索)を解剖学的に解析する。課題(iii)では、作製したPcdh発現細胞可視化マウス等を用いて、顆粒細胞と苔状繊維、顆粒細胞とプルキンエ細胞、顆粒細胞と分子層インターニューロンにおけるPcdh発現を調べる。
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