2016 Fiscal Year Research-status Report
高齢者法の確立に向けて-学際的研究による高齢者特有の法的課題の究明
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15KT0002
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
関 ふ佐子 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (30344526)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
櫻庭 涼子 神戸大学, 法学研究科, 教授 (20362808)
西村 淳 北海道大学, 公共政策学連携研究部, 教授 (20746523)
原田 啓一郎 駒澤大学, 法学部, 教授 (40348892)
鈴木 ゆめ 横浜市立大学, 附属病院, 教授 (70236024)
柳澤 武 名城大学, 法学部, 教授 (70363306)
川久保 寛 神奈川県立保健福祉大学, 保健福祉学部, 講師 (90706764)
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Project Period (FY) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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Keywords | 高齢者法 / 社会保障法 / ネオ・ジェロントロジー / アメリカ / イギリス / ドイツ / フランス / EU |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、第一に、高齢者法研究会を2ヶ月に1度開催した(平成28年4月23日、6月29日、8月5~6日、10月31日、12月9日、平成29年2月24日)。研究会では、研究者と実務家が報告する形とし、研究者は各人が研究する法学・医学の問題関心を報告し、実務家は実務において抱える課題を報告し、実態に即した高齢者特有の法的課題に関し、参加者の認識の共通化を図った。例えば、6月の第12回研究会では、研究分担者で医師の鈴木ゆめ氏が「無理をしない認知症との付き合い方」というテーマで報告し、研究協力者で弁護士の渡邉穣氏が「弁護士の引退時期に対する私的考察~実務の中で経験した具体的ケースを通じて」という報告をした。 第二に、高齢者法の比較法研究として、研究分担者の川久保寛氏が平成28年8月にドイツで調査を行った。日本に先行して介護保険法を立法し、運用するドイツの実態を明らかにするために、介護保険の保険者であるAOK(地区疾病金庫)nordost介護保険部門(ベルリン地区)を訪問した。ヒアリングによって、連邦州が策定する介護計画によって介護サービスの質および量、施設の配置等を規律していることや、介護保険の保険者によっては歩ける距離にセンターを設けて被保険者に相談・援助を行っていることなどが明らかとなり、日本の介護保険法を模倣した取組みが行われていることが確認できた。 第三に、国内では、熊本地震の被災地を高齢者法研究会のメンバーなどとともに視察した。特別養護老人ホームや病院の視察では、高齢者の被災状況にターゲットをおいた。また、研究協力者の本間郁子氏が理事長を務めるNPO法人Uビジョン研究所が認証した特別養護老人ホーム「龍生園」も調査した。高齢者関連施設や病院が高齢者や障がい者の避難先として震災時に機能する実態を見ることができた。 第四に、研究成果の公表媒体としてHPの構築作業に力を入れた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、第一に高齢者法研究会を2ヶ月に1度開催する計画をたてていたところ、予定どおりこれを開催し、毎回、活発な議論をすることができた。研究会は軌道にのりつつあり、「高齢者法」をどう定義すべきか、高齢者特有の法的課題は何かといった高齢者法という法分野の確立に向けて重要な論点に関する議論を始めることができた。また、各分野に造詣の深い研究者や実務家を研究会に招聘した。平成28年10月31日は、ドイツにおける介護政策に詳しい筑波大学の本澤巳代子氏に「在宅介護と家族-ドイツの例を参考に-」について報告いただいた。 第二に、医学と法学とで連携した学際的な研究の成果として、研究分担者で医師の鈴木氏と研究代表者で法学を研究する関ふ佐子が共同して論文「私の診療経験から : 無理をしない認知症との付き合い方 -- 認知症をめぐる医学と法学の連携 --」を公表することができた。研究者と実務家とが連携して研究し、毎回の高齢者法研究会では両者が常に報告した。熊本における「龍生園」の視察では、研究協力者の本間氏の説明のもと、実務における課題を研究者が見聞し、監査をめぐる課題の理解を深めることができた。 第三に、各研究者がアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、EUについて文献をもとに比較法研究を進めた。また、ドイツで現地調査を行った。海外の研究者との連携としては、Nina A. Kohn教授(Syracuse University College of Law)を中心にメールで意見交換を行い今後の共同研究の方法について話をつめた。 第四に、研究成果の一部を公表するために平成28年度はHP「高齢者法Japan」の構築に力を入れた。構築作業は多岐にわたり、HPの公開が予定より遅れている。 第五に、研究代表者・関が日本社会保障法学会第70回秋季大会で「引退過程世代の特徴と課題」について報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、第一に、引き続き高齢者法研究会での研究を基軸に研究を進めていく。2か月に一度、充実した研究会を重ねる。今年度は、日本における高齢者法の特徴を明らかにしていくための討議を進めるために、研究者と実務家とで共同して同一の問題を研究報告していく研究会を増やしていく予定である。 第二に、昨年度力を入れて構築してきたHP「高齢者法Japan」を今年度の早い段階で公開したい。昨年度来、高齢者法研究会の前に科学研究費のメンバーで、毎回一時間半ほど本研究の研究内容について協議を進め、HPについても協議を重ね原稿を執筆してきた。 研究者による研究テーマに関するHPで研究成果を発信していくために、HP作成の外注経費と人件費に今年度も当初予定以上に予算を割く予定である。 第三に、今年度は比較法研究として、各人が文献による研究を進めるほか、研究代表者の関、研究分担者の鈴木氏、原田啓一郎氏、柳澤武氏ほか研究協力者の弁護士などが平成30年3月にアメリカに現地調査に行く予定である。Syracuse University College of Law を訪問し、中堅若手で高齢者法の研究を活発に行っているNiha A. Kohn教授とセミナーをするほか、高齢者法を実践している弁護士とのセッション(事務所訪問など)、高齢者法のクリニック教育の視察、高齢者関連施設の視察などを計画している。 第四に、海外の研究者との連携を進めた結果、研究代表者の関が平成30年6月18-19日にテルアビブで開かれる高齢者法に関する国際会議Elder Law and Its Discontentsにて招聘報告をする予定であり、その報告に向けた準備を行う。 第五に、研究代表者の関と研究分担者の川久保氏が、平成30年6月3日に関西大学で開催される比較法学会で「高齢者医療と法」について報告予定であり、その報告に向けた準備を行う。
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Causes of Carryover |
HP「高齢者法Japan」を創設するための費用(外注経費と人件費)が当初予算よりもかさんだため、前倒しで次年度の予算を60万円使用すべく申請した。しかし、HPの構築に時間がかかり、その作業が一部遅れたため、そのための経費が残った。 この他、各研究分担者ができるだけ必要経費のみを使用し、来年度以降不十分となりかねない海外渡航費のためなどに予算を節約した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、HP「高齢者法Japan」の構築経費に使用するほか、各研究分担者が各研究経費にあてる予定である。
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Research Products
(28 results)