2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16520413
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
籾山 明 埼玉大学, 教養学部, 教授 (70174357)
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Keywords | 張家山漢簡 / 労役刑 / 刑期 / 文帝の刑制改革 / 異形化 |
Research Abstract |
本年度は、研究課題を刑罰制度の形成過程に置き、国内外の先行学説を整理した上で、新たに出土した文字資料、とりわけ湖北省江陵張家山出土の張家山漢簡「二年律令」の分析を進め、その成果をもとに旧稿の補訂作業を行なった。その結果、明らかになった事実は、次の通りである。 (1)戦国秦から漢初にかけての労役刑(強制労働刑)には定まった刑期がなく、贖身もしくは恩赦による以外、解放の方途はなかった。 (2)各種の労役刑に刑期を設定したのは、前漢文帝の13年(前167)に施行された刑制改革であり、これまで肉刑除去の側面からのみ理解されてきた『漢書』刑法志の一段は、刑期設定の記事としても読み直される必要がある。 (3)こうした不定期の労役刑とは別に、期間を定めた罰労働が文帝の刑制改革以前から存在しており、改革の意義はその方式を労役刑全体に拡大した点にある。 最後の(3)は、本年度の研究により新たに得られた認識であるが、それは(1)(2)の主張を補強する意味をもつ。もし労役刑が有期であれば、有期罰労働を別途設ける必要などないからである。 労役刑に本来、定まった刑期がなかったのは、肉刑すなわち身体の恒久的な欠損を伴っていたためである。その根底には、身体を毀損された者は社会的に排除され特殊な労役に従事する、という観念があった。したがって、文帝による刑制改革は、法制史上の意義のみならず、社会史的な重要性をも併せもつ。なぜならそれは、異形化による人間の社会的排除という、刑罰にその始原の時から備わっている属性を、最終的に払拭することになったからである。
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Research Products
(1 results)