Research Abstract |
海馬に移植したヒト脱落乳歯幹細胞(SHED)をマウス海馬に移植する際,大部分の細胞が死滅するため,これらの細胞が移植後海馬内で増殖する条件を検討した。最初に,SHEDをマウスに移植するため,異種間の拒絶反応の可能性を考慮した。そこで,これを防ぐため,移植後の新生マウスの腹腔にサイクロスポリンの投与(10mg/体重kg)を毎日行った。しかし,移植細胞の有意な成着数の増加は認められず,移植部位の環境因子(ニッチ)の改善が,SHEDの移植後の増殖に必要なことが示唆された。SHEDが海馬において,神経幹細胞あるいは神経細胞に分化転換し,どのような条件で増殖するか検討した。平成16年度の実績報告書において,咀嚼が海馬神経幹細胞の増殖に影響することを報告したが,そのメカニズムについてはよくわかっていなかった。申請者は,歯牙の喪失や軟食摂取では,口腔内の歯根膜受容器などを通して脳幹に入力していた刺激が消失し,脳幹から海馬まで情報の伝達が低下することにより,海馬の幹細胞数が減少するという仮説をたてた。そこで,生後4週のマウス臼歯の片側を抜去し,その後,通常食で数週間飼育し,bromodeoxyuridine(BrdU)を用いて,海馬歯状回における神経幹細胞の変化を測定した。その結果,BrdU投与直後では,両側の海馬歯状回で分裂した神経幹細胞数での増減はなかったが,BrdU投与5週間後において,抜歯側の反対側での海馬歯状回の幹細胞が同側に比べて有意に低下していた。以上の結果は,咀嚼を通して,口腔内の知覚情報が,脳幹を経由して海馬に到達し,神経幹細胞の維持に関与している可能性が示唆された。今後は,咀嚼の条件を変化させたり,脳幹から海馬へ達する神経系を特定し,これを刺激することでSHEDを効率的に移植する条件を検索したい。
|