2005 Fiscal Year Annual Research Report
近現代日本のオーケストラ活動のレパートリー形成に関する実証研究
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16720022
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Research Institution | Toho College of Music |
Principal Investigator |
井上 登喜子 東邦音楽大学, 音楽学部, 専任講師 (90361815)
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Keywords | 洋楽受容 / レパートリー形成 / 学生オーケストラ / 新交響楽団 / 近代日本 |
Research Abstract |
本研究は近現代日本のオーケストラに注目し、日本における西洋音楽のレパートリー形成に関する実証研究を行うものである。本年度は、大正期から昭和初期までを中心に、東京および複数の主要地方都市のオーケストラ活動からレパートリー・データベースを構築し、レパートリーの定量的分析を通して西洋音楽の受容過程の考察を行った。全国的な演奏活動を対象とするため、明治末から大正期に全国の高等教育機関に設立された学生オーケストラ9団体と、1926年に創設された日本初の職業オーケストラ「新交響楽団」をサンプルとした。本サンプルのレパートリーの全体的傾向を概観すると、初期には多様性が認められたが、次第にドイツ系音楽を中心とする受容に変化することが分かる。このレパートリー形成を実証するために、代表的な6つの時代様式(古典派、19世紀ドイツ・ロシア・フランス・東欧、20世紀日本)を取り上げ、各時代様式の演奏比率の団体間の違い、時代による違いについて、線形最小二乗法による重回帰分析により分析した。 本分析の結果、1920年代から1930年代前半までは各時代様式の演奏比率に団体差が確認され、団体ごとに独自のレパートリー形成を行っていたことが分かった。当初からレパートリーの中心を占めていた「古典派」作品も、演奏度合いには団体ごとにばらつきがあったこと、ベートーヴェン演奏は1920年代から団体差が見られないため、既に全国的に普及していたことが示された。一方、1930年代後半には、多くの時代様式の演奏比率に団体差がなくなっていくが、これはレパートリーの標準化が進んだことを意味する。一部の時代様式には団体差が残るが、その団体差はプロとアマチュアに二元化していった。つまり、この時期にアマチュア間ではレパートリーの標準化が著しく進むが、プロは新たなレパートリーを開拓するなどアマチュアとの差異化を図ったことが示された。標準化の背景には、プロの活動、ラジオ、レコード、評論などメディアの影響、時代的背景があるが、これらの要因分析は来年度の研究課題とする。
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Research Products
(2 results)